アマガミSSです。今更な感じですが、楽しんでいただければ幸いです。
過去作品
放課後 駅前商店街
橘「やった!! ついにゲットしたぞ... キビトランドの特別イベントのチケットを!!」
橘「うう...長かった... おかげで貯金を使いきったけど...」
橘「でも、これで薫をデートに誘える!!」
橘「今まで、自分の気持ちに気づかなかったけど...」
橘「僕は薫が好きだったんだ!!」
橘(いつもふざけ合って、笑い合って。時には喧嘩したこともあったけど...)
橘(僕が落ち込んでいるときは、元気づけてくれて...)
橘(薫といると楽しくて、薫が笑うと僕も嬉しくて...)
橘(ああ、これが恋なんだな、って思えるようになったんだ)
橘「よし、やるぞ!! 薫をデートに誘って、そして僕のこの気持ちを伝えるんだ!!」
橘「...って、あれ? あの、道路の反対側にいるのって... 薫か?」
棚町「あははっ、そうなんだ?」
男子学生「そうなんだよ、笑っちゃうだろ?」
橘(薫? ...一緒にいるのは、隣のクラスの...)
橘(な、なんで薫がアイツと一緒にいるんだ!?)
橘「どういうことだ!? くそ!! 近くにいきたいけど、車が...」
橘「ああ、見失った...」
翌日 教室
梅原「よう、大将!! どうだ、チケットは買えたか?」
橘「ああ、梅原か...」
梅原「おいおい、どうした? この世の終わりみたいな顔してるぞ?」
橘「そんな顔してるか...?」
梅原「ああ、思いっきりな。本当にどうしたんだ? 棚町をデートに誘うんだろ?」
橘「ああ、そうなんだが...実はな」
・・・・・
・・・・
・・・
梅原「棚町が隣のクラスの奴と!? マジかよ!?」
橘「ああ、確かに見たんだ...」
梅原「棚町に男が出来たって話は聞いたことないけどな... たまたま一緒に帰ってただけじゃないのか?」
橘「そうだといいんだけどな...」
梅原「そんなに気にすんなよ、大将!! 棚町があんな奴と付き合うわけないだろ?」
橘「そ、そうだよな。とりあえず薫に聞いてみるよ」
梅原「ああ、直接、本人に聞いてみろって!!」
翌日 休み時間 グラウンド
橘「はぁ... 薫が隣のクラスの男子と一緒に...」
橘(くそ...デートしてた薫が頭から離れない...)
橘(高橋先生につかまったから、結局、薫に聞けなかったし...)
棚町「あ~、純一発見!!」
橘「っ!! あ、か、薫...」
棚町「おっはよ、純一」
橘「...ああ、おはよ」
棚町「ん? どうしたー?」
橘「ど、どうしたとは?」
棚町「背筋が曲がってる。そんなんじゃ女の子が寄ってこないわよ?」
橘「そ、そうかな...」
棚町「な~に、本当に元気ないわね。どうしたの?」
橘「う、うん...」
橘(薫に昨日のことを聞いてみるか...)
橘「えと... 改まって言うようなことじゃないんだけどさ」
棚町「なに?」
橘「僕、昨日、薫のこと見かけたんだ」
棚町「昨日? どこで?」
橘「...隣のクラスの奴と一緒に歩いてるときだよ」
棚町「あ...」
橘「...」
棚町「あ~...それは、別に深い意味は無くてさ...」
棚町(あっちゃ~、見られてたんだ...)
棚町(前から何度も誘われてたから、一緒に帰っただけなんだけど...)
橘「も、もしかして付き合ってる...とかじゃないよな?」
棚町「はぁ? 何言ってるの、あんた?」
棚町(あたしが好きなのはあんたに決まってるじゃない!! この鈍感!!///)
棚町(...なんか腹立ってきたわね。ちょっとからかってやろうかしら)
橘「な、なんだ、違うのか」ホッ
棚町「...付き合ってるわよ」
橘「え?」
棚町「聞こえなかった? 付き合ってるのよ」
橘「ええっ!? い、いつから?」
棚町「ん~と、一週間くらい前からかな」
橘「な、なんで教えてくれないんだよ!!」
棚町「なんでいちいちあんたに教えなきゃいけないのよ」
橘「う... で、でも!!」
棚町「うっさいわねぇ。とにかく、あたしにはもう彼氏がいるんだから気安く遊びに誘わないでよね」
橘「...なんだよ、それ」
棚町「当然でしょ、か・れ・し・がいるんだから」
橘「ぐ...」
橘「...本当に、そいつと付き合ってるのか?」
棚町「しつっこいわねぇ。そうだって言ってるでしょ」
橘「そうか、わかった...」トボトボ
棚町(ちょっとからかい過ぎたかしら... でも)
棚町「いつまでもあたしの気持ちに気づかない罰よ~♪」ニシシ
橘(そんな... 薫に彼氏がいたなんて...)
昼休み テラス
梅原「ええ!! それじゃ本当に棚町に男が出来たってのか!?」
橘「ああ、本人から言われたよ。もう気安く誘うな、とも言われた」
梅原「そうか... まぁ、元気だせよ、大将」
橘「はぁ... せっかく二年前のクリスマスを吹っ切れて女の子を好きになることが出来たのに...」
梅原「大将...」
橘「でも、薫は可愛いから当然だよな。気さくな性格だし、面倒見もいいし...」
橘「自分の気持ちに気づくのが遅かった僕が悪いんだよな...」
梅原「...よし!! 今日は俺が昼飯をおごってやる!! 何が食いたいんだ?」
橘「お、おい梅原...」
梅原「何も言うな!! 親友が落ち込んでるんだ、これくらいどうってことねぇさ!!」
橘「う、梅原... ありがとう」
梅原「気にすんなよ、大将!! で、何にすんだ?」
橘「じゃあ、スペシャルランチで」
梅原「...容赦ないな、大将」
同時刻 昼休み 校舎の中庭
田中「ええっ!? じゃあ、橘くんに彼氏いるって言ったの!?」
棚町「そそそ。いや~恵子にも見せたかったわ。あの時のあいつの顔」
田中「そ、それで橘くんは何て言ったの?」
棚町「この世の終わりみたいな顔して『そうか...わかった』って」
田中「そ、そんな顔してたの...?」
棚町「まぁ、あたしが『彼氏が出来たらから気安く誘うな』って言ったのもあると思うけど」
田中「そ、そんなことも言ったの!?」
棚町「だってあいつったら、いつまでたってもあたしの気持ちに気づかないんだもん」
棚町「これぐらいしなきゃ駄目なのよ」
田中(確か橘くん、今週末のキビトランドの特別イベントに薫を誘うって...)
田中(薫を驚かせたいから黙っててくれって言われてけど...)
棚町「あ、恵子。純一には黙っててね? しばらく楽しみたいから」
田中「で、でも...」
棚町「いーのよ。これであいつも少しは懲りるでしょ」
田中「そうだといいけど...」
棚町「あ~あ、今週末どうしようかな~。バイトも休みだし、暇なのよね~」
田中(橘くん、誘ってないんだ... そうだよね、そんなこと言われたら...)
放課後 教室
棚町「あ~、終わった!! まったく授業時間が半分になればいいのに」
橘「......」
梅原(大将、ずっと元気ないな...)
田中(橘くん...)
絢辻「ねぇ橘くん、今日も委員会のお手伝い、お願いできるかな?」
橘「......」
絢辻「橘くん?」
棚町(ふふん♪ だいぶ効いてるみたいね。ダメ押しに...)
棚町「恵子~、買い物に付き合ってくれない?」
田中「えっ!? い、いいけど...」
棚町「て~んきゅ♪ いや~、愛しのダーリンにプレゼントをあげたくってさー」
田中「ええっ!?」
梅原「なっ!?」
橘「っ!? ...行こう、絢辻さん」
絢辻「えっ!? ちょ、ちょっと橘くん?」
田中「か、薫!! 今のはさすがに...」
梅原「お、おい、大将!!」
絢辻「どうしたの、急に?」
橘「...なんでもないよ。早く高橋先生から資料を貰わないと」
絢辻「え、ええ。そうね」
放課後 図書室
絢辻「...それで? 何だっていうのよ?」
橘「...なんのこと?」
絢辻「あなたねぇ、この期に及んでシラをきるつもり?」
橘「...」
絢辻「あなたと棚町さんとの関係に何があったか知らないけど」
絢辻「そんな調子で手伝われたら、かえって迷惑なの」
橘「...ごめん」
絢辻「悪いと思ってるなら、何があったか教えてちょうだい」
橘「うん、わかったよ」
橘「実は僕...薫のことが好きだったんだ」
絢辻「そうね。あなたの態度を見ればわかるわ」
橘「はは、絢辻さんにはバレちゃってたんだ」
絢辻「あなたって思ってることがすぐに顔にでるからね」
絢辻(...おかげであたしの入る余地がないってわかったんだけど)
橘「そうなんだ... それで、薫をデートに誘って自分の気持ちを伝えようと思ったんだ」
橘「今週末にキビトランドで特別イベントがあるのは知ってる?」
絢辻「ええ、確か経営者が変わって、それを祝うためのイベントだったかしら?」
橘「うん。そのイベントに誘おうと思ってたんだ」
絢辻「でも、チケットがかなり高額だって聞いたけど?」
橘「うん、僕の貯金じゃぜんぜん足りなかったから、色々やったよ」
橘「それでどうにかチケットを買うことができた日に、薫が隣のクラスの男子と歩いてるところを見かけたんだ」
橘「それを薫に聞いたら『彼氏ができた。だから気安く誘うな』って言われちゃってね」
絢辻「......」
橘「だからチケットが無駄になっちゃったって話だよ」
絢辻「棚町さんに彼氏がいたなんて、知らなかったわ」
橘「一週間前にできたみたい」
絢辻「そう。 ...まぁ、よくある話ね」
橘「はは。相変わらず絢辻さんは手厳しいな」
絢辻「だって本当にそうじゃない」
橘「うん... でも、僕にとっては一大決心だったんだよ」
橘「僕、実は二年前に好きな女の子からデートの約束をすっぽかされてね」
絢辻「...初耳ね」
橘「うん、あまり人に話したくない出来事だからね」
絢辻「すっぽかされた理由は?」
橘「...わからないんだ」
絢辻「わからない?」
橘「うん。僕なりに一生懸命頑張ったし、彼女も悪くは思ってなかったみたいだし」
橘「でも、ずっと待ってたけど、待ち合わせ場所に彼女は来なかった」
橘「それ以来、女の子を好きになることが怖くてね」
絢辻「......」
橘「でも、それじゃ駄目だって思って」
橘「だから誰かを好きになるように、そして好かれるように努力をしてきたんだけど」
橘「結局、無駄だった...」
橘「ごめんね。絢辻さんには関係ないのに、迷惑かけちゃったね」
絢辻「いいのよ。元々、作業の進捗は順調だったし」
絢辻「それにあなたの昔話も聞けたしね」
橘「はは、なんか女々しいよね」
絢辻「そんなことないんじゃない?」
橘「...ありがとう、絢辻さん」
絢辻「どういたしまして。 ...それでチケットはどうするの?」
橘「え? ああ、どうしようかな... 一緒に行く相手はもういないし...」
絢辻「あたし、今週末は予定無いのよね」
橘「へぇ、そうなんだ」
絢辻「......」
橘「......」
絢辻「......」
橘「......」
絢辻「ねぇ、橘くん。もしかしてわざとやってる?」
橘「え? な、なにが?」
絢辻「あのねぇ、なんでそこであたしを誘おうって思わないわけ?」
橘「ええっ!? あ、絢辻さんを!?」
絢辻「はぁ... この流れであたしを誘う以外の選択肢があったら教えて欲しいわ」
橘「で、でも絢辻さんはいいの? 僕なんかと一緒で...」
絢辻「橘くん、あなたの悪いところをひとつ教えてあげるわ」
橘「ぼ、僕の悪いところ?」
絢辻「ええ。変態なところ、学校にいかがわしい本を溜め込んでるところ、挙げればキリがないけど」
橘「ひ、ひどい...」
橘(しかも隠し教室に保管してあるお宝本の存在がバレてる...?)
絢辻「一番の問題はあなたが『自分を卑下しているところ』ね」
橘「う...」
絢辻「あなたは自分が大したことじゃない、つまらない人間だと思ってる」
橘「だって、実際に...」
絢辻「あのね、橘くん。よく考えてみて。あなたって学年を問わず友人が多いわよね?」
橘「う、うん... 梅原、梨穂子、森島先輩、塚原先輩、七咲、紗江ちゃん、マサ、ケン...」
絢辻「それに棚町さんも、ね。他にもいるんじゃない? 茶道部の先輩とか」
橘「よく知ってるね...」
絢辻「っ!? ぐ、偶然よ。それで、その知り合いの多さに何か思わない?」
橘「皆、いい人達だよ。僕なんかと...」
絢辻「ストップ、そこまで。また自分を卑下してるわね」
橘「あ...」
絢辻「ねぇ、橘くん。あなたが自分で言うほどつまらない人間だったら、そこまで友人ができると思う?」
橘「......」
絢辻「あなたは『他人を思いやること』ができるわ。それって素晴らしいことよ?」
絢辻「あなたのとの約束をすっぽかした相手を憎んだりしないし」
絢辻「誰も手伝おうとしないクリスマス委員の仕事を手伝ってくれるし」
絢辻「他にも何か思い当たることがあるんじゃない? 誰かのために行動したこと」
橘「で、でもそれって大したことじゃ...」
絢辻「あなたにとってはそうかもしれない。でも相手にとってはそうじゃないのよ」
絢辻「皆、あなたの行動で救われた。だからあなたは色々な人から好かれるの」
絢辻「私もそう。あなたが本当の私を見つけてくれて、それを受け入れてくれた」
絢辻「それが凄く嬉しかった。あなたの前では自分を偽らなくていいんだもの」
橘「絢辻さん...」
絢辻「だからそんなに自分を卑下しないで。 ...あなたは素敵よ///」
橘「...ありがとう///」
絢辻「わかれば、よろしい。それで、さっきの話だけど...///」
橘「う、うん///」
絢辻「私、今週末、暇なんだけどな~?」
橘「それじゃあ絢辻さん、僕とデートに行かない?」
絢辻「ふふ、喜んで♪」
橘「じゃあ、詳しい話は帰りながら決めようよ。もう遅いし」
絢辻「そうね。それじゃあ私、教室からカバンをとってくるわ」
橘「うん、玄関で待ってるよ」
絢辻「ええ、すぐに行くわ」
・・・・・
・・・・
・・・
万に一つも自分の得にならんのに……
絢辻「ふぅ、思いがけないチャンスが巡ってきたわね」
絢辻「棚町さんのことだからどうせ、自分に振り向かせるために考えた芝居なんだろうけど」
絢辻「馬鹿よね。せっかくのアドバンテージを自ら捨てるなんて」
絢辻「皆、彼の気持ちに気づいてたから諦めてたのに...」
絢辻「他の連中が気付く前でよかったわ」
絢辻「ふふ、週末が楽しみね♪」
週末 駅前広場
絢辻「橘くん、おまたせ」
橘「そんなに待ってないから、気にしないで。絢辻さん」
絢辻「ふふ、ありがとう」
橘「...絢辻さんが帽子を被ってるところなんて、初めて見たよ」
絢辻「ええ、普段はあまり被らないんだけど...」
橘「それなのにどうして?」
絢辻「今日は『普段とは違う日』だからよ///」
橘「っ!? そ、そうなんだ///」
絢辻「ちゃんと、エスコートしてよね?」
橘「うん、もちろんだよ」
・・・・・
・・・・
・・・
絢辻「ところで、今日の特別イベントって何をするの?」
橘「ああ、17時から園内をライトアップして、パレードするみたい」
絢辻「あら、素敵ね」
橘「うん、すごく話題にもなってたし」
絢辻「今、ちょうど12時をまわったところだから、まだ時間あるわね」
橘「そうだね。まずはお昼御飯にしようか」
絢辻「何か、あてはあるの?」
橘「うん、僕のとっておきの場所に案内するよ」
絢辻「ふふ、期待しちゃうわよ?」
・・・・・
・・・・
・・・
絢辻「あ~美味しかった♪」
橘「気に入ってくれてよかったよ」
絢辻「とっても気に入ったわ。洋食屋なんて初めて入ったけど、すごく素敵な雰囲気なのね」
橘「あそこは隠れた名店なんだよ。オムライスが絶品なんだ」
絢辻「ええ、美味しかったわ」
橘「それに、もうすぐ季節限定メニューでビーフシチューが出るんだよ」
絢辻「それも美味しそう!!」
橘「うん、これもお薦めだよ。また今度来ようか?」
絢辻「ええ、楽しみにしてるわ」
橘「はは、今から待ち遠しいよ」
絢辻「でも、橘くんがあんなお店を知ってるなんて、意外だったわ」
橘「中学の頃からこの辺りをブラついてたからね」
橘「色々、知ってるんだ」
絢辻「そうなんだ。ねぇ、他にお薦めの場所はないの?」
橘「そうだなぁ... 絢辻さんはビリヤードできる?」
絢辻「ルールを知っている程度ね。実際にやったことは無いわ」
橘「そっか。この近くに出来る店があるから行ってみない?」
絢辻「いいわよ。初心者なんだから、手加減してよね?」
・・・・・
・・・・
・・・
絢辻「よしっ!! これで残りは9だけね」
橘「...絢辻さん、本当に初心者?」
絢辻「ええ、プレイするのは初めてよ?」
橘(めちゃくちゃ上手いんですけど...)
絢辻「ん~... あそこのクッションを利用して... となると狙いは」
絢辻「...ここね!!」ガッ カコンッ
橘「ああっ!!」
絢辻「ふふ、あたしの勝ちね♪」
橘「......」
絢辻「さて、どうする? もう一回やりましょうか?」
橘「も、もちろん!! 僕の本当の実力を見せてあげるよ!!」
絢辻「じゃあ、負けたほうが晩御飯おごりでいいかしら?」
橘「望むところさ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
橘「...参りました」
絢辻「5勝0敗で私の勝ちね」
橘(まさか、一度も勝てないなんて...)
絢辻「ふふ、晩御飯はなにがいいかしら?」
橘「......」
絢辻「駅前のあのお店もいいけど、前から気になってるお店もあるし...」
絢辻「でも、この服装じゃ入店拒否されちゃうかしら」
橘「ええっ!? ど、どんなお店に行くつもりなの?」
絢辻「冗談よ。それよりもうすぐパレードの時間じゃない?」
橘「え? ああ、本当だ。着く頃にちょうど始まる感じかな」
絢辻「じゃあ、そろそろ行きましょう?」
橘「うん、そうだね」
夕方 キビトランド入口
絢辻「へぇ。結構、混んでるのね」
橘「うん、びっくりだよ」
絢辻「遊園地なんて久しぶりに来たけど... 相変わらずカップルが多いわね」
橘「はは、僕たちもそう見えるのかな」
絢辻「なっ!?」
橘「あ、ごめん。僕とじゃ嫌だったかな?」
絢辻「...そんなことないわ///」
橘「...そ、そう///」
橘(絢辻さんが照れてる... なんだか凄く可愛いな...)
絢辻「ほ、ほら!! さっさと入るわよ!!///」
橘「ああっ!! 待ってよ、絢辻さーん!!」
・・・・・
・・・・
・・・
園内 パレード特別席
美也「うっひゃ~、すごい人だね~。VIP席で良かったよ~」
七咲「うん、本当に多い... 中多さんのおかげだね」
中多「えへへ、パパがチケットをくれたの♪」
美也「紗江ちゃんのパパって凄いんだね~」
七咲「何をやってる人なの?」
中多「え~と、出版社の社長なの。今回のイベントもパパが主催なんだよ」
美也「ええっ!? そうなのっ!?」
七咲「じゃあ、キビトランドの新しい経営者って...」
中多「うん、私のパパなの」
美也「おお~、紗江ちゃんお金持ち~」
中多「そ、そんなことないよ?」
七咲「いや、十分すごいと思う...」
美也「そっか~。美味しいものをたくさん食べてるからそんなにふかふかなんだね♪」
中多「み、美也ちゃんっ!? ダメです~///」
美也「にししし~。良いではないか、良いではないか~♪」
七咲「美也ちゃん... まったく、あの兄にしてこの妹あり、ね」
七咲(...橘先輩)
七咲(先輩と一緒に来たら、どうなってたんだろう?)
七咲(やっぱりカップルに見えたのかな...?)
七咲(でも、橘先輩は棚町先輩のことが好きだから...)ハァ
七咲「...あれ? あそこの一般席にいる人って」
七咲「もしかして先輩? ...隣にいるのは、絢辻先輩!?」
七咲「なんで絢辻先輩と一緒にいるんだろ...?」
美也「にっしっしっし~♪ ふかふかのまんま肉女♪」
中多「み、美也ちゃ~ん///」
・・・・・
・・・・
・・・
パレード一般席
橘「絢辻さん、寒くない?」
絢辻「平気よ。これだけ人がいれば逆に暑いくらいだわ」
橘「あはは、確かに人が多いね」
絢辻「多すぎよ、まったく...」
橘「でも、見やすい位置でよかったよ」
絢辻「そうね。ここならはっきり見えそう」
橘「うん。なんだかワクワクしてきたよ」
絢辻「もう、子供なんだから...」
橘「絢辻さんはワクワクしてこない?」
絢辻「もちろん、ワクワクしてるわ♪」
橘「はは、絢辻さんも人のこと言えないじゃないか」
絢辻「ふふ、そうね」
橘「あ、絢辻さん、はぐれるといけないから」ギュ
絢辻「え? あ...///」
橘「こうして手を繋げば、はぐれないでしょ?」
絢辻「...うん。絶対、離さないでね?///」
橘「うん。もちろんだよ」
・・・・・
・・・・
・・・
同時刻 パレード一般席反対側
森島「寒い、寒いわ、響ちゃん!!」
塚原「汗が引いたのね。まぁ、あれだけはしゃいでたから」
森島「だって、遊園地なんて久しぶりなんだもん!!」
森島「ここのところ、受験勉強ばかりだったし...」
塚原「受験生なんだから、勉強するのは当然でしょ」
森島「響ちゃんは推薦とったからいいわよね~」
塚原「日々の勉強の積み重ねよ」
森島「はぁ~... こんな寒いときは甘酒が恋しくなるわ~」
塚原「また、お爺さんから影響されたわね...」
森島「ううん、橘くんが教えてくれたの」
塚原「橘くんが?」
森島「うん。『寒い時は甘酒が一番ですよ』ってね...」
塚原「そう...」
森島「今頃、何してるのかな~。きっと棚町さんと一緒なんだろうな...」
塚原「そうかもね...」ハァ
森島「ふふ、響ちゃんもあの子のこと、好きだったでしょ?」
塚原「なっ!? なに言ってるの、はるか!?///」
森島「わお、その反応!! やっぱりそうだったのね~」
森島「もしかしたら、と思ってたんだけど」
塚原「...はるかに見破られるなんてね」
森島「ふふ~ん、甘いわね、響。あなたのことはなんでもわかるんだから♪」
塚原「なんか悔しいわね...」
森島「まぁまぁ。寂しい者同士、仲良くしましょ」
塚原「ふふ、そうね。 ...あら?」
森島「どうしたの? だれか知り合いでもいた?」
塚原「ねぇ、あの通路挟んだ、反対側の席にいるのって...」
森島「むむむ~? あれ、橘くん? ええ!? 横にいるのって」
塚原「...調べてみる価値がありそうね」ニヤリ
・・・・・
・・・・
・・・
橘「はい、甘酒。温まるよ」
絢辻「あなたってずいぶん、渋い趣味があるのね」
橘「はは、冬になると小さい頃から飲まされてたからね」
絢辻「いただくわ、寒いし」
絢辻「はぁ~、確かに温まるわね」
橘「でしょ? 寒い日に外で飲む甘酒は格別なんだよ」
絢辻「意外と悪くないわね」
ピンポンパンポーン
<お待たせいたしました。これから特別パレードを開催いたします。
橘「あ、始まるみたい」
絢辻「いよいよね」
・・・・・
・・・・
・・・
パレード中
パレード中
橘「あ、キビにゃんだ!!」
絢辻「え、どこ?」
橘「ほら、あそこの上」
絢辻「あ、本当。ふふ、案外かわいいのね」
橘「はは。一応、ここのマスコットだしね」
絢辻「あら、こっちに手を振ってくれてるわよ」
橘「本当だ。おーい、キビにゃーん!!」
絢辻「ちょ、ちょっと!! 恥ずかしいじゃない!!///」
橘「でも、せっかくのパレードだし、楽しまないと」
絢辻「だからって、そんな大声で!!」
橘「ほら、絢辻さんも!!」
絢辻「もう... キ、キビにゃーん!!///」
橘「その調子だよ、絢辻さん!!」
絢辻「キービにゃーん!! あっ!! こっちを見てくれたわ!!」
橘「大声を出したかいがあったね」
絢辻「ふふ、なんだかテンション上がってきちゃったわ」
橘「うん、僕もだよ」
絢辻「キービにゃーん!!」
橘「キビにゃーん!!」
・・・・・
・・・・
・・・
パレード終了後 キビトランド出口
絢辻「綺麗だったわね」
橘「うん、来てよかったよ」
絢辻「正直、ここまでのものとは期待してなかったわ」
橘「予想以上だった?」
絢辻「ええ、すごく綺麗だったし。それに...」
橘「それに?」
絢辻「すごく楽しかったわ///」
橘「僕も楽しかったよ。絢辻さんのあんなに笑ってる顔、初めて見た」
絢辻「そうね。私もあんなに笑ったのなんて初めて」
橘「はは、絢辻さんの可愛いところが見れたよ」
絢辻「っ!? も、もう、そんなこと言わないでよ///」
橘「でも、本当のことだし」
絢辻「もう... 恥ずかしいからやめてよ///」
橘「今日は絢辻さんの色々な一面が見れたよ」
絢辻「色々ってどんな?」
橘「今日のためにわざわざ帽子をかぶってきてくれたことや」
橘「オムライスが好物だったり、ビリヤードが強かったり」
橘「そして、笑うと凄く可愛いところかな?」
絢辻「...橘くんと一緒だからよ」
橘「え?」
絢辻「橘くんの前でしか、こんな表情はみせないわ」
絢辻「そもそも、あなた以外の人とデートなんて行かない」
絢辻「あたしは相手が橘くんだから、こうしてデートを楽しむことができるの」
橘「そ、それって... どういう...」
絢辻「ふふ、今はまだ教えてあげません♪」
橘「そ、そんなぁ...」
絢辻「クリスマスパーティが成功したら教えてあげる♪」
・・・・・
・・・・
・・・
同時刻 キビトランド出口
伊藤「...怪しい」
桜井「か、香苗ちゃん、やっぱり駄目だよ~」
伊藤「何言ってんの!! あんたの為でしょ?」
桜井「でも、そうと決まったわけじゃ...」
伊藤「いや、あれは間違いないね。橘くん、棚町さんに振られたんだわ」
桜井「たまたまかもしれないし...」
伊藤「でも、こんなイベントを好きな人と観に来ないって変じゃない?」
桜井「そ、それは...」
伊藤「ねぇ、桜井。あたしはあんたに幸せになって欲しいの」
伊藤「今までは桜井が納得してたから、あたしも何も言わなかったけど」
伊藤「今は違う。もしかしたらあんたが幸せになれるかもしれない」
桜井「......」
伊藤「好きなんでしょ? 橘くんが。他に好きな人がいるって知っててもさ」
桜井「...うん。好きだよ。ずっとずっと好きだった...」
伊藤「じゃあ、確かめなくちゃ。もし、あたし達の勘違いだったらそれで終わり。」
伊藤「でも、もし本当に橘くんが棚町さんに振られてて、それであんたが行動を起こさなかったら」
伊藤「きっと後悔するよ?」
桜井「...うん。そうだね。そうだよね!!」
桜井「私、頑張る!!」
伊藤「よしっ!! その調子だ、桜井!! 大丈夫、骨は拾ってやるからさ!!」
桜井「ほ、骨を拾われるような結果にはなりたくないよ~」
伊藤「あはは... そうだね、ごめん」
伊藤「とにかく、チャンスが巡ってきたんだから、頑張んなよ!!」
伊藤「そうと決まったら早速、あたしの相方から情報収集しなきゃ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
数日後 昼休み テラス
桜井「やっぱりスペシャルランチは美味しいね~」
橘「くっ... これみよがしに自慢して...」ズルズル
桜井「あはは、純一は今日もラーメンなんだね」
橘「ああ、出遅れたからな」
桜井「いや~、このエビフライが絶品ですな~」
橘「おのれ... 食べ物の恨みは恐ろしいんだからな!!」
桜井「まぁまぁ。ところで、純一。今日の放課後って暇かな?」
橘「ん? いや、今日は予定が入ってるな」
桜井「そっか~。残念」
橘「何かあったのか?」
桜井「新しいクレープ屋さんを見つけたから一緒にどうかなって」
橘「お、そんな店があるのか?」
桜井「えへへ~。この前、純一と駅前商店街に行ったときに見つけたんだ~♪」
橘「ああ、あの時か。じゃあ、今度行こうか?」
桜井「本当!? いつにする?」
橘「う~ん...そうだな」
橘(今日の放課後は森島先輩と牛丼を食べに行く予定だし...)
橘(明日は七咲と一緒に帰る約束をしてるし、明後日は紗江ちゃんとだし...)
橘(なぜか最近、よく誘われるんだよな)
橘「梨穂子、土曜は空いてるか?」
桜井「今週の? うん、空いてるよ~」
橘「じゃあ、土曜にしよう。この前、一緒に見た手袋も買いたいし」
桜井「ええっ!? い、いいの!?」
橘「いいも何も、梨穂子から誘ってきたんだろ?」
桜井「あ、そうだった... えへへ///」
橘「それで、土曜でいいのか?」
桜井「うん!! 今から楽しみだよ~」
橘「はは、おおげさだな」
桜井(や、やった!! 純一とデートだ!!///)
・・・・・
・・・・
・・・
棚町「...なによ、あれ」ムスー
田中「どうしたの、薫?」
棚町「あいつ、最近、あたしに全然絡んでこないと思ったら」
棚町「他の女の子とやけに仲良くなってるのよね」
田中「そ、それは、薫があんなこと言うから...」
棚町「確かに言ったわ。だけどさぁ...」
棚町「普通、すぐに他の女のところにいく?」
田中「他の女って... 橘くんは薫と付き合ってるわけじゃなかったし」
棚町「あー、もう!! なんかすっきりしないわね...」
田中(デートに誘おうとした当日にあんなこと言われたら、誰だって...)
・・・・・
・・・・
・・・
放課後 教室
絢辻「橘くん。今日、よかったら一緒に帰らない?」
橘「ああ、絢辻さん。ごめん、今日は予定があるんだ」
絢辻「そう... 残念ね」
橘「ご、ごめんね。そうだ、よかったら明日、一緒にお昼ごはんを食べない?」
絢辻「ふふ、いいわ。それで許してあげる」
橘「はは、ありがとう」
絢辻「じゃあ、あたし、お弁当作ってきてあげる」
橘「ほ、本当に!?」
絢辻「ええ。リクエストがあるなら応えるけど?」
橘「そうだなぁ... それじゃあ、から揚げが食べたいかな」
絢辻「ふふ、わかったわ。期待してて♪」
棚町「......」ムスー
梅原(大将、元気になったみたいだな。だけど...)
田中(薫...)
棚町「...恵子。あたし、先に帰るわね」
田中「あ、うん。じゃあね、薫...」
薫「......」スタスタ… ガラッ バタン
梅原「やれやれ、田中さんも気苦労が絶えないねぇ」
田中「あ、梅原くん... あたし、どうしたらいいか...」
梅原「ほっとけばいいんだよ。今回は全面的に棚町が悪い」
田中「うん。あたしもそう思う。だから自業自得だって言えばそれまでだけど...」
梅原「棚町をほっとけないってか」
田中「うん...」
梅原「まぁ、田中さんは棚町の親友だしな。気持ちはわかるぜ」
梅原「お互い、大将の気持ちも棚町の気持ちも知ってたしな」
田中「梅原くんは、このまま放っておくの?」
梅原「ああ。俺は大将の親友だからな。棚町のした事は許せねぇ」
梅原「あいつがどれだけ悩んできたのか知ってるし、今回のために頑張っていたのも知ってる」
梅原「その気持ちを知っておきながら、あんな仕打ちをしたんだ。許せねぇよ」
田中「でも薫も悪気があったわけじゃ...」
梅原「わかってる。でもあれはちょっと、酷いぜ?」
梅原「それに今、大将は立ち直って新しい恋をしようとしてるしな」
田中「絢辻さんのこと?」
梅原「どうかな。俺が思うに絢辻さんが大将にほの字だと思うんだけどな」
田中「ええっ!? そ、そうなの?」
梅原「絢辻さんだけじゃないぜ? 見てみろよ」
森島「橘くーん!! お待たせー!!」
橘「あ、森島先輩!! あれ、塚原先輩も?」
塚原「あ、あたしも、その、お腹がすいてたから...///」
橘「そ、そうなんですか」
森島「もう、素直じゃないな~。響ちゃんは」
塚原「は、はるか!!///」
森島「わお!! 響ったら真っ赤になっちゃって、可愛い~」
塚原「も、もう///」
橘「あの...?」
塚原「ほら、早く行きましょ!!」
森島「ああん、待ってよ、響ちゃ~ん。ほら、橘くんも行きましょ!!」
橘「は、はい。じゃあね、絢辻さん」
絢辻「ええ、また明日ね」ゴゴゴゴゴ…
橘(絢辻さんの背後から黒いオーラが見える...)
梅原「とまぁ、あんな感じだ」
田中「森島先輩と塚原先輩まで...」
梅原「それだけじゃない。隣のクラスの桜井さん、一年の七咲、中多さんもだな」
田中「ええっ!? そんなに?」
梅原「田中さんは知らないかもしれねぇが、大将は結構、モテるんだぜ?」
梅原「自分よりも人のことを優先しちまう。そんな大将の性分に惹かれたんだろうな」
梅原「もっとも、あいつはそれに気づいてないけどな。まぁ、それがいいのかもな」
田中「そうなんだ...」
梅原「今までは棚町がいたから、大人しくしてたけど」
梅原「あの様子だと、知れ渡ってるみたいだな」
田中「梅原くん、なんだか詳しいね?」
梅原「...まぁな」
梅原(香苗さんに根掘り葉掘り聞かれたしな...)
数日後 昼休み
棚町「...ねぇ、純一」
橘「...薫か、何か用か?」
棚町「いや、その... あのさ」
橘「なんだよ」
棚町「よかったら一緒にお昼でもどうかなって」
橘「ああ、悪い。もう先約がいるんだ」
棚町「そう、なんだ...」
棚町「じゃあさ、今日の放課後って空いてる?」
橘「いや、予定がある」
棚町「そう...」
橘「じゃあ、人、待たせてるから」
棚町「待って!! ...あのさ」
橘「どうした?」
棚町「あたしたち、なんか最近、あまり絡んでないよね」
棚町「休み時間も話してないし、放課後、一緒に帰ったりもしてない」
橘「ああ、そうだな...」
棚町「......」
橘「でも、薫には彼氏がいるんだろ?」
棚町「っ!! あ、あれは... その...」
橘「彼氏がいるから気安く誘うなって言ったのは薫だぞ」
棚町「うん...」
橘「じゃあ、僕は行くよ」
棚町「......」
七咲「もう、先輩、こんなところにいたんですか?」
橘「ああ、ごめん、七咲」
七咲「早くしないと、一緒にお弁当を食べる時間がなくなってしまいますよ?」
橘「うん、すぐに行くよ」
七咲「ほらほら、早く来てください♪」
橘「お、おい、七咲!! 引っ張らないでくれよ」
七咲「ふふ、駄目です。遅れた罰ですよ」
棚町「...なんでこうなったんだろう」
棚町「あたしは、あいつに振り向いて欲しかっただけなのに」
棚町「誰よりも近くにいると思ってたのに...」
・・・・・
・・・・
・・・
数日後 放課後 帰り道
絢辻「すっかり遅くなったわね」
橘「そのぶん、クリスマス委員の仕事が片付いてよかったよ」
絢辻「ええ、だいぶ進んだわ。橘くんのおかげね」
橘「はは、そう言ってもらえると、手伝った甲斐があるよ」
絢辻「ふふ、なにかお礼をしなくちゃね」
橘「そんな、いいよ。僕が好きでやってるんだし」
絢辻「そうもいかないわ。ね、何をして欲しい?」
橘「う~ん、絢辻さんにして欲しいことか...」
橘(お風呂場であんな格好や、台所でこんな格好を...///)
絢辻「...トリップしてるところ悪いけど、あなたの妄想のようなお礼はしないわよ?」
橘「や、やだなぁ。僕は紳士だよ? そんな変な妄想なんて...」
絢辻「あなたの考えなんて丸分かりよ」
絢辻「どうやらお礼ではなくてお仕置きが必要なようね」
橘「そ、それは勘弁してください...」
絢辻「ふふふ、どんなお仕置きがいいかしら。 ...あら?」
橘「あ、薫...」
棚町「......」
橘「どうしたんだ、薫。そんなところで」
棚町「...あんたを待ってた」
橘「僕を?」
絢辻「...私は外したほうがいいかしら?」
棚町「ええ。悪いけど、そうしてもらえるかしら」
橘「あ、絢辻さん...」
絢辻「いいのよ、橘くん。そこの公園で待ってるわ」
橘「うん、なるべく早く行くよ」
絢辻「ええ」
棚町「......」
橘「それで、僕になんの用なんだ?」
棚町「...なんで、何もしてこないの」
橘「はぁ? 何言ってんだ、薫?」
棚町「なんで、あたしを放っておいて、他の女の子と仲良くしてんのよ」
橘「言ってることが...」
棚町「前はいつも一緒だったじゃない!!」
棚町「休み時間も、昼休みも、帰りもずっと!!」
棚町「純一のそばにあたしがいて、あたしのそばに純一がいる...」
棚町「それが当然だったのに、なんでよ!!」
橘「それは、お前に彼氏が出来たから...」
棚町「そんなの、嘘に決まってるでしょ!!」
棚町「あたしが好きなのはあんただけよ!! わかるでしょ!?」
棚町「純一もあたしのことが好きよね!?」
棚町「でも、何もしてこなかった!! だからあたしは彼氏がいるなんて嘘をついたの」
棚町「そうすれば、あんたがあたしを好きって言ってくれるって思ったから...」
棚町「あたしは純一にきっかけを与えたのに... どうしてよ...?」
橘「薫...」
棚町「......」
橘「...お前の言うとおりだよ。確かに僕はお前が好きだった」
橘「いつも一緒にいて、ふざけ合って、笑い合って、喧嘩をして」
橘「薫が笑ってくれると僕も嬉しかった。もっとお前と一緒にいたいって思ってた」
棚町「じゃあ、どうして...」
橘「だからあの日、僕はお前をデートに誘おうとしてたんだ」
棚町「あの日...?」
橘「...お前が『彼氏がいるから誘うな』って言った日だよ」
棚町「あ...」
橘「キビトランドの特別イベントを薫と一緒に行こうと思って」
橘「頑張ってお金を貯めて、チケットを買ったんだよ」
橘「一緒にパレードを見て、そして...」
橘「薫に告白する気だった。お前が好きだって言おうと思ってた」
棚町「嘘...」
橘「でも、お前は『彼氏がいるから誘うな』と言った。だから僕は誘わなかったんだ」
棚町「だってそれは...」
橘「嘘だったなんて、わかるはずないじゃないか」
棚町「でも、あたしの気持ちに気づかないあんたが悪いんじゃない!!」
棚町「だからあたしは...!!」
絢辻「やめなさい。見苦しいわよ」
橘「絢辻さん!?」
棚町「...なによ。あんたは関係ないじゃない」
絢辻「ええ、出てくる気はなかったんだけど」
棚町「じゃあ、引っ込んでなさいよ!!」
絢辻「言いがかりであたしの好きな人が責められるのは我慢ならないわ」
棚町「なっ!?」
橘「あ、絢辻さん!?」
絢辻「ごめんね、橘くん。ちゃんとした場所で伝えたかったんだけど」
絢辻「あ、でも返事はまだいいわ。まずはこの場を終わらせましょ?」
棚町「...いい度胸してるじゃない」
絢辻「あなたもね、棚町さん。あんな言いがかりで詰め寄るなんて感心しちゃうわ」
棚町「...何が言いがかりなのよ」
絢辻「わざわざ言わせる気? それはあなた自身が一番わかってるじゃない」
棚町「......」
絢辻「『何もしてこないからきっかけを与えた』ですって? 笑わせないでよ」
絢辻「あなたは自分から気持ちを伝えるのが怖かっただけ」
絢辻「告白して振られるのが怖かった、だからあんな嘘をついたんでしょ?」
棚町「あたしは...」
絢辻「違うとは言わせないわ」
橘「あ、絢辻さん。そこまで...」
絢辻「お願い、言わせて。彼女の為でもあるわ」
絢辻「棚町さん、あなたは橘くんが何もしてこないって言ったわよね?」
絢辻「でも、それは違うわ。何もしてないのはあなたじゃない」
絢辻「彼から聞いたわ。二年前のクリスマスのこと」
棚町「っ!! ...」
絢辻「悲しくて、辛くて、人を好きになるのが怖くなったって言ってたわ」
絢辻「でも、橘くんはそこから努力した」
絢辻「いつまでもくじけるのはやめよう、周りから好かれるような人になろう」
絢辻「そしてもう一度、人を好きになってみようって」
絢辻「自分の意気地の無さを他人のせいにするあなたとは雲泥の差ね」
絢辻「そんなあなたに彼を責める資格なんて無いわ」
棚町「......」
絢辻「黙っているということは、認めたわけね?」
絢辻「行きましょう、橘くん」
橘「...うん」
棚町「...待ってよ、純一」
橘「......」
棚町「あたしはあんたのことが好き。 ...純一は?」
橘「...僕も薫のことが好きだったよ。でも、今は...」
棚町「好きだった、ってなによ... そんな昔のことみたいに言わないでよ」
棚町「あたしは今でも純一のことが好きよ? ねぇ!?」
橘「ごめん、薫」
棚町「純一...」
翌朝 登校中
中多「先輩、おはようございます♪」
橘「おはよう、紗江ちゃん」
中多「今日も寒いですね」
橘「うん、布団が恋しいよ」
中多「ふふ、わかります。その気持ち」
橘「そういえば紗江ちゃんってベッド派? 布団派?」
中多「わ、私ですか? 私はベッドですね」
橘「そうなんだ。もしかしてお姫様ベッドみたいな?」
中多「もう、そんな大げさな物じゃないですよ?」
橘「はは、そうなんだ。どんなベッドか見てみたいな」
中多「そ、それなら... 今度、家に遊びに来ませんか...?///」
橘「え!? いいの?」
中多「は、はい。先輩なら平気です... ///」
橘「そ、そうなんだ。じゃあ、今度お呼ばれしようかな///」
中多「はい!! 先輩が都合いい日はいつですか?」
橘「う~ん、そうだなぁ...」
棚町「......」
恵子「か、薫...? 元気出してよ」
・・・・・
・・・・
・・・
昼休み テラス
塚原「あ、あら橘くん、こんにちは」
橘「あ、塚原先輩。こんにちは」
塚原「今日はひとりなのかしら?」
橘「ええ、いつも一緒の友人が先生に呼び出されて」
塚原「そ、そう。 ...なら、ご一緒してもいいかな?///」
橘「ええ、構いませんよ」
塚原「じゃあ、失礼するわね」
橘「なんだか塚原先輩と一緒に食事するって不思議ですね」
塚原「あ、ごめん。迷惑だったかな」
橘「いえ、そうじゃないんです」
橘「少し前まで、僕にとって塚原先輩ってなんだか遠い存在だったので」
塚原「遠い存在?」
橘「頭も良くて、水泳部部長で、そして綺麗で...」
橘「森島先輩と同じくらい、僕の中では憧れの存在だったんです」
塚原「そ、そんなこと...///」
橘「それがこうして同じテーブルで食事が出来るなんて」
橘「なんだか嬉しくって///」
塚原「ふふ、ありがと。でも、私は君が言うほど凄くないわよ?」
塚原「他の皆と同じように悩んだりするし...」
塚原「こ、恋だってするわ///」
橘「はは、塚原先輩に好かれるなんて、よっぽど素敵な人なんでしょうね?」
塚原「ええ、そうね。最初は不思議な人だと思ってたんだけど」
塚原「誰かのために一生懸命になってるその人を見てるうちに、段々と私の中で変化が起きたの」
橘「変化ですか?」
塚原「うん。なんだか放っておけないというか... 人を惹きつける魅力があるというか」
橘「人を惹きつける魅力...?」
塚原「でも、困ったことにその人は私の大事な後輩と親友も虜にしちゃってるのよね」
橘「そ、その人ってまさか...?」
塚原「ふふ、本当に罪作りな人よね♪」ジー
橘「...///」
棚町「......」
田中(ずっと橘くんのことをつけまわして... どうしたんだろう)
放課後 校門
七咲「先輩、お待たせしました」
橘「お疲れ様、七咲」
七咲「いえ、部活の後片付けは一年生の仕事なので」
橘「そうなんだ。でも、毎日大変だね」
七咲「もう慣れましたし、平気です」
橘「じゃあ、今日はどこに行こうか?」
七咲「そうですね... ヘクチュッ!!」
橘「七咲?」
七咲「す、すみません。くしゃみが... ヘクチュッ!!」
橘「だ、大丈夫か? ああ、髪が濡れたままじゃないか」
橘「じゃあ、今日はどこに行こうか?」
七咲「そうですね... ヘクチュッ!!」
橘「七咲?」
七咲「す、すみません。くしゃみが... ヘクチュッ!!」
橘「だ、大丈夫か? ああ、髪が濡れたままじゃないか」
七咲「えへへ... 先輩に早く会いたくて///」
橘「指先もこんなに赤くして... 風邪を引いたらどうするんだ?」
七咲「す、すみません...」
橘「ほら、手出して」ギュ
七咲「...あ///」
橘「こうすれば少しは暖かいだろ?///」
七咲「はい。とても暖かい、です///」
七咲「...先輩、もっとくっついていいですか?」
橘「うん、もっと傍においでよ」
七咲「...はい///」ギュウ
橘「どこかでおでんでも買っていこうか? 温まるし」
七咲「ふふ。私、おでんにはうるさいですよ?」
橘「はは、七咲の眼鏡にかなうものがあるといいけどな」
七咲「まず、大根は外せませんね。それとはんぺんも...」
棚町「なるほどね...」
棚町「どいつこいつも、あの手この手で純一を誘って...」
棚町「ライバルはたくさんいるってわけか」
棚町「...上等じゃない」
翌朝 登校中 校門前
橘「うう...寒い」
橘「すっかり冬本番だな。昨日は雪も降ったし」
橘「鼻で息をすると、奥がツーンとするよ...」
絢辻「おはよう、橘くん」
橘「おはよう、絢辻さん」
絢辻「ふふ、鼻が真っ赤よ?」
橘「うん、早く教室で暖まりたいよ」
絢辻「今日はこれまでで、一番の冷え込みらしいわね」
橘「はぁ、雪が積もるのも時間の問題かな...」
棚町「純一」
橘「あ、薫...」
絢辻「あら、棚町さん」
棚町「......」ツカツカ
橘「ど、どうした。そんな真剣な顔して...」
棚町「純一、ちょっと顔貸しなさい」ガシッ
橘「お、おい! 僕の両頬をおさえて何を...」
チュッ
橘「っ!?」
絢辻「なっ!?」
桜井「純一~!! おはよ~...って、ええ!?」
森島「わお...」
塚原「あらら...」
七咲「せ、先輩...」
中多「こ、こんなところで...」
美也「な、何してるの、にぃに!?」
橘「~~~っ!!///」
棚町「~~ぷはっ///」
橘「か、薫!? 急に何をするんだ!!」
棚町「何って、キスよ。あ、ちなみに今のはあたしのファーストキスだから♪」
橘「そうじゃなくて!! 急にこんなところで...///」
棚町「純一、これがあたしの気持ちよ」
橘「薫の?」
棚町「そう、あたしはあんたが好き。たとえ今は他の女の子が好きだとしても」
絢辻「ずいぶんと自分勝手な自己主張ね。周りのことを考えないなんて」
棚町「周りのことなんて、どうだっていいわ。自分勝手なのもわかってる」
棚町「絢辻さん、あたしに言ったわよね? 『何もしてないのはあなた』だって」
棚町「だからあたしも自分なりに行動を起こすことにしたわ。これはその第一歩」
絢辻「橘くんの迷惑も考えずに、人前でキスすることが?」
棚町「ええ。人前だからこそ、よ。」
棚町「ちょうど勢ぞろいしてるわね」ニヤリ
桜井「え~と...」
森島「むむむ...」
塚原「なるほど、そういうことね」
七咲「挑戦状、というわけですか」
中多「ま、負けません!!」
絢辻「...やってくれるわね」
橘「か、薫、お前...」
棚町「聞いた通りよ、純一」
棚町「あんたがもう、あたしに興味がないって言うのなら」
棚町「もう一度、あんたをあたしに惚れさせるわ!!」
橘「ええっ!?」
棚町「ほら、早く教室に行くわよ」
棚町「あ、今日のお昼は一緒にご飯食べるわよ。 あんたのためにお弁当作ってきたんだから!!」
絢辻「ち、ちょっと待ちなさい!! 今日のお昼はあたしが誘おうと...」
桜井「わ、私も~!!」
森島「響ちゃん、私たちも負けてられないわ!!」
塚原「七咲、とりあえず手を組みましょう」
七咲「そうですね。まずは最大のライバルをどうにかしないと」
中多「こ、こうなったら裸エプロンを...///」
美也「さ、紗江ちゃん!? 何言ってるの!?」
梅原「へぇ~。やるなぁ、棚町」
田中「か、薫... かっこいい...」
橘「...相変わらず、大胆だな」
棚町「今に始まったことじゃないでしょ?」
橘「...まぁな」
棚町「ふふ。純一、あんたはあたし以外、見ちゃダメなんだからね♪」
完
これにて終了です。最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
また機会があれば投稿させていただきます。
乙
やはりアマガミはいい
次回も楽しみに待ってるぜ
久しぶりにアマガミのSS新作読めて嬉しいわ。過去作品も覚えてるよ
薫も可愛いけど、絢辻さんスキーの俺としては絢辻さんに希望が残ってるエンドでほっとしてる
絢辻さん可愛いよ絢辻さん
乙乙
確かに薫のやったことは紳士の事を考えると全然褒められたことじゃないけど、
破局ではなく結果はどうあれちゃんとみんな土俵に上がった終わり方になってよかった。
流石に薫に救済一切なしはきついわ
そして絢辻さんが裏表のない素敵な人でよかった。可愛いけどね
面白かった
コメント