彡(^)(^)「いやあ花見は楽しいなあ、ファミチキもビールもあるし」
(´・ω・`)「こんな丘の上に桜があったんだねえ」
(´・ω・`)「一本だけだけど、きれいな桜だね、なんて品種だろう?」
彡(^)(^)「桜なんか咲いてたら何でもええわ、とにかくビールや」
彡(゚)(゚)「……ん?」
彡(゚)(゚)「よく見たら、この桜……」
彡(゚)(゚)「ニセモノちゃうか?」
(´・ω・`)「え?」
(´・ω・`)「まあソメイヨシノじゃないみたいだね」
(´・ω・`)「かなり古い桜みたいだけど」
彡(゚)(゚)「いや、そういうことやなくて」
彡(゚)(゚)「なんか根本的に桜じゃない気がする……」
(´・ω・`)「?」
彡(゚)(゚)「こらお前、ほんまに桜か?(蹴飛ばす)」
(´・ω・`)「やきう君ダメだよ、桜を蹴ったら」
桜「いたた、けるなや」
(´・ω・`)「桜がしゃべったああああああああああ!!」
桜「そら桜かて色んな種類あるからな、喋るもんもおるわ」
(´・ω・`)「そ、そんなバカな」
桜「別に、とって食うわけやないわ、騒がんでもええ」
(´・ω・`)「でも会話できる桜なんて存在するわけが……」
桜「ふむ」
桜「ほんなら酒の肴に、わしの話でもしたろか」
桜「あれは数百年前のことや」
彡(゚)(゚)「ちょ、ちょっと待ってくれ」
(´・ω・`)「やきう君? どうしたの」
彡(゚)(゚)「腰が抜けたんや、起こしてくれ」
(´・ω・`)「……」
―はるか昔―
彡(^)(^)「わっはっは、飲めや歌えや」
彡(^)(^)「カネならなんぼでもあるでー、桜の時期は三日三晩飲み明かすんやー」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「やれやれ、町一番のお大尽が催す花見と聞いたが」
(´・ω・`)「こんなもので満足するようでは底が知れる」
彡(゚)(゚)「ん?」
彡(゚)(゚)「なんやお前は、ワイの宴は三国一やぞ」
彡(゚)(゚)「酒は灘から運ばせた、料理は京都の一流の人間が作ったんや」
彡(゚)(゚)「桜かて吉野の山から三十本も運んできたんや、ひと財産ぐらいのカネがかかっとる」
彡(゚)(゚)「これが楽しくないやつなんて、おるわけない」
(´・ω・`)「確かに料理と酒は一流だ」
(´・ω・`)「だが、桜の楽しみ方としてはまるでダメだな」
(´・ω・`)「まあ、凡人に過ぎぬお前に言っても詮なきことか」
彡(゚)(゚)「聞き捨てならんで! ワイほど桜が好きな人間は他におらん!」
彡(゚)(゚)「これ以上の花見があるというなら見せてみい!」
(´・ω・`)「……よかろう」
(´・ω・`)「では明日、私の庵(いおり)に来るがいい」
(´・ω・`)「北に三つの山を超え、山頂に桜が咲く場所だ、遠目にもすぐに分かる」
彡(゚)(゚)「わかった、明日やな」
彡(゚)(゚)「なんでモデルがワイと原住民なんや?」
桜「イメージしやすいやろ」
(´・ω・`)「来たか」
彡(゚)(゚)「へんぴなとこに住んでるなあ」
彡(゚)(゚)「ふむ、庵の周りを桜が囲んで……」
彡(゚)(゚)「まあ中々の桜やけど、ワイは日本中の桜を見てきたからな」
彡(゚)(゚)「上野の山や嵐山の桜には遠く及ばんで」
(´・ω・`)「ふむ、そこには大量の桜があると聞くな」
彡(゚)(゚)「せや、数百本、いや数千本あるで」
(´・ω・`)「しかし、お前はその桜をすべて見たのか?」
彡(゚)(゚)「? いや全部というか、遠目にざーっと広がってるのを見たけど」
(´・ω・`)「花の一つ一つ、花弁の一枚一枚を見たか?」
彡(゚)(゚)「いや、そんな細かいもん見えるわけが……」
(´・ω・`)「では、この水で目を洗いなさい」
(´・ω・`)「この庵の裏手に清水が湧いておる、それに様々な薬草を溶かしたものだ」
彡(゚)(゚)「なんやねん、別に目なんか洗ったって……」チャプチャプ
彡(゚)(゚)「おお、なんか目がスッキリして……」
彡(゚)(゚)「おお!? 見える、花びらが全部見える!」
彡(゚)(゚)「一枚一枚クッキリと見える! すごい迫力や!!」
(´・ω・`)「人間の網膜には、およそ120万から150万の神経節細胞がある」
(´・ω・`)「網膜が受けた光刺激が神経節細胞に伝わるわけだが、網膜の視細胞自体は一億ほどある」
(´・ω・`)「視細胞を活性化させれば、遥かに高い解像度での視界を得られるわけだ」
彡(゚)(゚)「全っ然分からんけどすごい眺めや……桜がこんなに綺麗やったとは」
(´・ω・`)「そういえば聞いたことあるなあ」
(´・ω・`)「あるテレビ番組で、桜の花びらをすべて数える実験をしたら、一本の桜から59万枚の花びらが落ちたとか」
桜「その番組作ったやつアホやな……」
彡(゚)(゚)「人のこと言えへんと思う……」
彡(゚)(゚)「ほんまに綺麗な眺めや、これに比べたら、上野の山の桜も霞む……」
彡(゚)(゚)「あいたた、でもなんか頭が痛い」
(´・ω・`)「目を閉じなさい」
彡(-)(-)「こ、こうかいな」
(´・ω・`)「しばらくすれば水の効果は切れる」
(´・ω・`)「解像度が数百倍になるということは、情報量も数百倍になるということ」
(´・ω・`)「その状態に耐えるためには、何年もの修業が必要なのだ」
彡(-)(-)「し、修行したら、ずっとこの状態でおれるんか?」
(´・ω・`)「そうだ、そして毎日目を洗えば、いずれはその目が正常になる」
彡(゚)(゚)「お願いや! ワイを弟子にしてくれ!」
彡(゚)(゚)「その目を手に入れたいんや! 何でもする!」
(´・ω・`)「……わかった、では今日からここに住むがいい」
彡(゚)(゚)「えぇ……お金持ちやったんやろ、財産を手放すんかいな」
桜「出家みたいなもんや、そのぐらい決意が硬かったんや」
彡(゚)(゚)「ワイやったらじゃがりこ腹いっぱい食べてからやなあ、人生の目標やねん」
(´・ω・`)「人生の目標、五千円でお釣りくる説」
―数年後―
(´・ω・`)「苦しい修行によく耐えた」
(´・ω・`)「お前は心身ともに鍛えられ、特別な目を手に入れたのだ」
彡(゚)(゚)「ありがとうやで」
(´・ω・`)「だが、まだ十分とは言えぬ」
彡(゚)(゚)「そうなんか?」
(´・ω・`)「ちょうど桜の時期だ、この酒を目に塗ってみなさい」
彡(゚)(゚)「はあ、ちょっと目に染みるけど」ぬりぬり
彡(゚)(゚)「おお……! なんや!? 桜の花に色がついてる!」
彡(゚)(゚)「紫に橙に桃色や、めっちゃ極彩色や!」
(´・ω・`)「それは昆虫の視界だ」
(´・ω・`)「昆虫は紫外線を見ることができるため、人間とはまったく異なる風景を見ている」
(´・ω・`)「人間には淡い色に見える花も、昆虫の目から見れば極彩色に見える場合もあるのだ」
(´・ω・`)「どうだ、チョウやハチが花に誘われる気持ちがわかるだろう」
彡(゚)(゚)「これは群がってしまうわあ」
彡(゚)(゚)「この世のものとは思えぬ美しさや、どんな絵や宝石もこれには……」
彡(゚)(゚)「あ、だんだん色が戻って……」
(´・ω・`)「特別な霊酒とはいえ、効果はせいぜい一分だ」
(´・ω・`)「この目を身につける修行は、先の修行の比ではない」
(´・ω・`)「細胞レベルでの体質改善と、悟りを開くのにも似た精神修養が必要なのだ」
彡(゚)(゚)「なんでもやるわ! あの目が欲しいんや!」
(´・ω・`)「わかった、稽古をつけてやろう」
彡(゚)(゚)「紫外線なんか見えたら日焼けしてまうやろ」
桜「は?」
(´・ω・`)「あ、いつもこんなんなんで気にせずに」
桜「今のはワシちょっとキレそうになったで」
彡(゚)(゚)「沸点ひくい……」
―数十年後―
(´・ω・`)「よく修行を乗り越えた、お前はすでに人間を越えた目を持っている」
(´・ω・`)「目だけではなく、体力も、精神力も人間を遥かに超えている」
彡(゚)(゚)「やったで」
(´・ω・`)「お前は立派なわしの後継者だ」
(´・ω・`)「お前にももう分かっているだろう、わしは仙人だ」
彡(゚)(゚)「え、全然分からんかった」
(´・ω・`)「え、じゃあ何だと思ってたんだ」
彡(゚)(゚)「…………」
彡(゚)(゚)「すごく暇な人?」
(´・ω・`)「……悲しい」
彡(゚)(゚)「まあ頭のええ人やとは思ってたけど」
彡(゚)(゚)「今はワイにも分かるけど、世の中でまだ知られとらん知識も持ってるし」
(´・ω・`)「仙人だぞ、何でも知っておる」
彡(゚)(゚)「どのぐらい頭がいいのかと言うと、そのへんのトンボとかミミズとも会話できるほどで」
(´・ω・`)「逆に頭悪そうに聞こえるからやめろ」
(´・ω・`)「まあいい、わしはまた己の修業に入る」
(´・ω・`)「お前はわしの後継者として修行を積むがいい、いずれ土地神になることもできよう」
彡(゚)(゚)「…………」
彡(゚)(゚)「いや、待ってくれ、まだや」
彡(゚)(゚)「ここで何十年も修行してわかったんや、ワイはまだまだ桜を真に愛でてるとは言えんのや」
(´・ω・`)「なんだ? お前の目はすでに見えぬものなどない目だぞ」
彡(゚)(゚)「目やないんや、本当に桜を愛でるには……」
彡(゚)(゚)「……という事が必要なんや」
(´・ω・`)「なんだと……」
(´・ω・`)「しかしそれは、わしですら想像もしてなかった事」
(´・ω・`)「仮にできたとしても何十年、いや何百年もかかるかも……」
彡(゚)(゚)「ワイはやってみせる!」
彡(゚)(゚)「何十年、何百年かかっても、必ず……!」
―現在―
彡(゚)(゚)「ほーん……つまり、こういうわけやな」
彡(゚)(゚)「桜を真に愛でるには、ワイ自身が桜になることや、ドン! と」
桜「今のドンって何や?」
(´・ω・`)「それで、その男は桜になってしまった、という話ですね」
桜「ちがう」
彡(゚)(゚)「は?」
桜「キミら、話の中に出てくるやきう民がわしやと思ってるか」
彡(゚)(゚)「へ? 違うんか?」
桜「仙人だった原住民がわしや」
(´・ω・`)「ええええええええ」
(´・ω・`)「ど、どうしてそんな姿に? やっぱり桜を愛でるために」
桜「これは寿命を長くするためや」
桜「わしは、あの男のやることを待つために、この土地で桜になることにしたんや」
(´・ω・`)「やること……?」
彡(゚)(゚)「話が見えんで、何が起きたんや」
桜「キミら、桜の欠点って何か分かるか?」
(´・ω・`)「欠点ですか? ええと、比較的病気に弱かったり、剪定するとそこが腐りやすかったり……」
桜「そういうのもあるけど、最大のものは、開花の時期が短いことや」
彡(゚)(゚)「時期……?」
桜「そう、長い品種でも、せいぜい二週間も咲いてへん。すぐに葉桜になってしまう」
桜「もし、二ヶ月、三ヶ月と花をつける品種があったら、あるいは一年中咲き続ける桜があったとしたら、どうなると思う?」
彡(゚)(゚)「どうなる、と言われても」
桜「この世が極楽になるんや」
彡(゚)(゚)「は?」
桜「争いもなくなる、悲しいことも穏やかになる、そして毎日がそこはかとなく幸せになるんやな」
桜「あの男は、まず桜を変えるべきと考えたんや。山を降りて、残っていた財産を売り払って園芸屋を始めた」
桜「そして無数の桜を交雑させて、新しい品種を生み出した、それを全国に広めたんや」
(´・ω・`)「それは、もしかして……」
桜「しかし、それも開花が多少長くなったに過ぎん。あいつは仙人界へ登って、そこでまだ改良を続けてる」
桜「仙人界では時間がものすごい速さで流れる、きっと近いうちに、素晴らしい桜ができることやろう」
彡(゚)(゚)「…………」
(´・ω・`)「…………」
(´・ω・`)「すごい話だったねえ」
彡(゚)(゚)「正直眉唾ものやったけど、壮絶な話やったなあ」
(´・ω・`)「あの丘でずっと待ち続けてるらしいけど」
(´・ω・`)「あの桜もかなりの古木だったし、昔話が本当なら、男が作ったのはソメイヨシノのことじゃないかな」
(´・ω・`)「ソメイヨシノができたのは1900年ごろだし」
(´・ω・`)「品種改良と言っても、簡単にはいかないみたいだね」
彡(゚)(゚)「そうやなあ」
(´・ω・`)「でもまあ、長く咲き続ける桜ができたら、世の中が極楽になるって」
(´・ω・`)「それはさすがに妄想の域だと思うけど」
(´・ω・`)「そもそも、桜が喋るからって、言ってることが全部本当という証拠もないわけで……」
彡(゚)(゚)「……」
彡(゚)(゚)(せやろか?)
彡(゚)(゚)(ワイらは見たことがないから、そう思うだけで、もし一年中、町が桜で満たされていたら」
彡(゚)(゚)(そこには、ワイらが想像できないような社会が生まれるのかも……)
彡(゚)(゚)(そう考えると、なんや素晴らしい目標に思えてくるで……)
彡(゚)(゚)「……まあ、それはともかく、あの丘」
(´・ω・`)「うん?」
彡(゚)(゚)「あの丘に人が寄り付かんかった理由って、あの桜やろな……」
(´・ω・`)「…………」
(おしまい)
読んでくれた方ありがとうございます
最近はなろうもやってます、こちらもよろしくお願いします
https://ncode.syosetu.com/n1867fd/
この話にはまったく違う設定の没バージョンもあるので、それはなろうの方に上げときます
>>52
できたのは江戸中期みたいですね、他の桜と分けられて命名されたのが1900年ごろでした、すいません
>>38は「1800年ごろ」と脳内変換おねがいします