美也「にししししし!楽しみー!」
橘「げほっ!ごほっ……きゅ、急に何言い出すんだよ?」
美也「だって、久しぶりじゃん!にぃにには期待してるからね!」
橘「はあ?僕に一体どうしろっていうんだよ」
美也「もー、鈍ちんなんだから。そんなのプレゼントに決まってるじゃん」
橘「ぷ、ぷれぜんと?」
美也「そーだよ!期待してるからね、にぃに!」
美也「じゃ、みゃーはお風呂入ってくるねー」
橘「なんなんだよ一体……」
橘「久しぶりって、もしかして美也、最近遅れてたのか?」
橘「それにしてもプレゼントかぁ」
橘「どうしろって言うんだよ……」
橘「まさか僕に生理用品を買ってこいってことじゃないよな?」
橘「う……ま、まさか。いやでも、美也の考えることは時々わかんないからな」
橘「うぐぐ……ど、どうすればいいんだ!?」
美也「ふーふふーん、ふーん」
美也「にしししし!にぃに、今頃悩んでるだろうなー」
美也「たまには妹に孝行させてあげるのだー!」
梅原「よう大将!今日もいい天気だし久しぶりに川原散策でも……ってどうした?なんか凄い顔だぜ?」
橘「梅原……それが美也がさ、女の子の日が近いからプレゼント寄越せって言うんだよ」
梅原「お、女の子の日ぃ!?……あ、あーそうだな。そういやそうか」
橘「急に言われてもどうすればいいのかわかんなくてさ……」
梅原「まー、あれだ大将。別に金使わなくても祝ってあげればいいんじゃないかね」
橘「うぅ……そ、それは恥ずかしくないか?」
梅原「俺には妹がいないからわからんが、ま、改めて祝うってのは恥ずかしいかもな……」
橘「それに祝うったって……せ、赤飯でも炊けばいいのか?」
梅原「はぁ?はっはは!それは案外いいかもな!なんならケーキもついでに買ってったらどうだ?」
橘「うう……か、考えておくよ」
梅原「おう!ま、がんばるこった。お兄ちゃん?」
橘「うぐぐ……」
橘「うう、ほんとに梅原と話してたのでいいのか?」
橘「ちょ、ちょっと他の人の意見も聞いておきたいな」
橘「えっとまずは……薫、ちょっといいか?」
棚町「でさー、そんときのアイツの顔がおかしいったらなくて……あら、話題のお兄さん。なんか用?」
田中「あ、橘君……あはは」
橘「え?どうしたのさ、田中さん僕の顔見るなり笑って。おい薫、お前田中さんになに吹き込んだんだ?」
棚町「べっつにー?ただアンタがスケベなお馬鹿って話しただけよ」
橘「また妙なことを……田中さん、こいつの言うことは全部流しちゃっていいからね」
田中「あはは、大丈夫。私も橘君がすごくいい人だって知ってるから……ちょっとえっちだけどね」
橘「そ、そんなぁ……」
棚町「あっはははは!お、お腹いったいわ……はー、それで?私になにか用?」
橘「ああ、そうなんだよ。ちょっと相談したいことがあってさ。田中さんにも聞いていいかな?」
田中「うん、大歓迎。橘君には助けてもらった恩もあるから」
橘「えっと、じゃあ……ええと田中さんは知らないと思うけど、僕には美也っていう一個下の妹がいるんだ」
棚町「そそ、これがコイツに似ずに可愛いのよ。ほんと可愛げで言えば月とミジンコくらい差があるわ」
田中「あはは……そうなんだ。でも橘君も結構かっこいいからそこまででもないと思うよ?」
棚町「ちょっと恵子本気?こいつがかっこよかったら鼻血、じゃなくて花園君なんてほんとの王子様よ?」
橘「話の腰を折るなよ薫……あと田中さんは棚町よりずっと可愛げがあるよ、うん」
田中「そ、そうかな?か、可愛いかあ……えへへ」
棚町「……ちょっと、ナンパしてないでさっさと話しなさいよ」
橘「脱線させたのはお前だろ……ええと、それで美也が、女の子の日が近いって言い出して」
棚町「は、はあ!?ちょっとアンタ何言い出すのよ!」
田中「か、薫ちょっと声が大きいよ。それにそういう意味じゃなくて多分」
田中「ほら、もうちょっとで3月だから」ゴニョゴニョ
棚町「へ……あ、あー。そういうことか」ゴニョゴニョ
橘「それで何かプレゼントをよこせって言うんだけど、どうすればいいかなって思ってさ」
棚町「んー。私はあんまり強くそういうの思ったことないけど……なにかしらもらえれば嬉しいけどね」
田中「うーん、私も昔はお祝いしたけど、最近はあんまり。大事だけど習慣みたいになっちゃってるかな」
橘「そっか。じゃああんまり直接的な物じゃないほうがいいのかな」
棚町「そうねー……でもプレゼントをねだるってことはまんま直接的でもいいんじゃない?」
田中「だね。コンビニとかでも売ってるから買いやすいと思うよ」
橘(まんま直接的って、や、やっぱり生理用品なのか!?)
橘(確かに薬局に行くよりは気が楽……とはいえさすがに)
橘「あ、ありがとう。参考にするよ……」
棚町「はいはい、可愛い妹なんだから大事にしなさいよ」
田中「あはは、どういたしまして」
橘(でも直接的な物かあ……女子って結構オープンなんだな)
橘「はあ、もう放課後か。やっぱり一人で考えるのは辛いなあ」
橘「今日は帰るとして、明日からもちょっと意見を聞いてみよう」
橘「……ん?あれは」
絢辻「……ふう」
橘「絢辻さん?なんだか辛そうな顔してるな。おーい、絢辻さーん!」
絢辻「え?ああ、橘君……どうしたの?今一人なのかな」
橘「うん、そろそろ帰ろうかと思ったところだよ」
絢辻「……そうなんだ、じゃあ申し訳ないんだけど、少し時間取ってもらってもいいかな?手伝ってもらいたいことがあるの」
橘「え?う、うん。いいけど」
絢辻「ふふ、ありがとう。それじゃあ資料室まで来てもらえる?」
橘「は、はい……」
橘「えっと、ここだよね?あれ、ここってもっと汚かったような」
絢辻「……」パタン
橘「凄い、床もピカピカだ。昨日の今日に掃除でもしたみたいだぞ」
絢辻「……橘君、イス」
橘「え?イスならそこに……あ、絢辻さん?」
絢辻「イス」
橘「はいっ!ど、どうぞ」スッ
絢辻「っはあああああ」ドカッ
絢辻「ったく、高橋先生、何から何まで私にやらせようとしてない?」
橘「あのう……絢辻さん?」
絢辻「肩」
橘「へ?」
絢辻「肩!」
橘「えっと……じゃあ失礼して」ムニュ
絢辻「ん……」
橘(あ、あったかい!ブレザーの上からなのに手にほのかな熱気があるぞ!)モニュモニュ
橘(それにこう、ぐっと強く揉むと)キュウウ
絢辻「あっ、ん!はっ、あ!」
橘(わかる……わかるぞ!親指を横にずらすと指先に感じるわずかな起伏!)
橘(間違いない、これはブ、ブラジャーの紐だ!)
絢辻「いたっ……た、橘君、もっと優しく揉んで……」
橘「ご、ごめん!優しく……」
橘(手の甲にはサラサラの髪の毛がかかってくるし、大きく手を動かすたびに)ギュッギュッ
絢辻「あ……そう、上手……気持ちいい」
橘(ふわっとシャンプーの香りが!)
橘「そ、そんなに肩凝ってないと思うんだけど」
絢辻「ああ、片付けはさっき終わったところだもの。でも疲れちゃって」
橘「え、じゃあここを綺麗にしたの絢辻さん一人なの?」
絢辻「ええ、まあ高橋先生に言われたのは資料を探すだけなんだけど」
絢辻「予想以上に汚れてたからついでに掃除してたの。どうせなら綺麗なほうがいいでしょ」
橘「そんな、大変だったんじゃ」
絢辻「別に……創設祭のときよりは楽だったわよ。時間制限もないし」
橘「い、言ってくれれば手伝ったのに」
絢辻「別にいいわよ。それに、今こうしてねぎらってくれてるじゃない。これで十分よ」
橘「え?でもこれは絢辻さんがわりと無理矢理……」
絢辻「あら?なにかしら?」
橘「え、笑顔が怖いよ……」
橘「よっ、はっ」モニュモニュ
絢辻「ん……ありがと、もういいわ」
橘「え、もう?」
絢辻「ええ、もう十分……な、なんで残念そうな顔してるのよ」
橘「もうちょっと絢辻さんに触ってたかったかなぁ」
絢辻「なっ!ば、馬鹿なこと言ってないの!」
絢辻「ほら、さっさと帰るわよ!」
橘「あ、うん……そうだ!ちょっといいかな」
絢辻「ええ?なに?」
橘「ええと…」
橘(女の子への生理用品何を買えばいいかな、って聞くのはさすがにまずいよな)
橘「ええと、僕はあんまり詳しくないんだけど、女の子はどっちがいいのか聞きたくて」
絢辻「……何が?言いたいことがさっぱりわからないんだけど」
橘「あっと……ほら、え、えーと、えーと」
橘(だ、ダメだ!言わないと伝わらないよ)
橘(言うしかない!絢辻さんなら薫みたいに言いふらしたりしない……はず)
橘「生理の後ってケアが必要だと思うんだ!絢辻さんもそうだと思う!」
橘「それで女の子って挿すのと当てるのの、どっちがいいのかと思って!」
橘(言った!言ってしまった!)
橘(終わった!やっぱりやめればよかった!)
絢辻「……整理の後のケア?」
橘「う、うん。妹がそうなりそうなんだけど、どっちのほうがいいのかなーって……は、はは」
絢辻「ああ、そういうこと」
絢辻(要は肩こり対策にどうするか、ってことね)
橘「ご、ごめん!やっぱり忘れて!」
絢辻「は?別にいいわよそれくらい」
橘「え?い、いいの?聞いても」
絢辻「ええ。まあそうね……」
絢辻(刺す、というからには針治療よね。それと対比するのが当てるタイプって。まったく相変わらず極端な思考というか)
絢辻「刺すのは上手い人ならいいと思うけど、やっぱり一般的なのは当てるタイプじゃないかしら」
橘「な、なるほど……」
絢辻「ただ臭いを気にするなら当てるのはよくないかもしれないけど」
橘「え?そうなの?」
絢辻「ええ。ま、その女の子次第だけど」
橘(な、なんだ。絢辻さんも意外と怒らないんだな……もしかして女の子ってこういう話題あんまり気にしないのかな)
橘「……ち、ちなみに絢辻さんはどっち?」
絢辻「え?私?そうね、基本的には当てるほうだけど。でも1回くらい刺してみるのに興味はあるわ」
橘「へ、へえー……あ、当てるタイプなんだ」
絢辻「・…ちょっと、あんまり変なこと考えないでよ?さすがに恥ずかしいんだから」
橘「ああ、うん!ごめん!」
橘(み、未知の世界だ……)
絢辻「じゃあ私はこれで帰るから」
橘「うん、色々ありがとう絢辻さん」
絢辻「どういたしまして。ああそうだ、橘君?」
橘「え?」
絢辻「妹さんだけじゃなくて、私にもプレゼントしてくれたら嬉しいんだけど?」
橘「へっ?」
絢辻「ふふ、じゃあまた明日ね」
橘「あ、また明日……」
橘「……」
橘「二人分になったぞ……」
橘「はああああ。いったいどうすればいいんだよ……」ゴロゴロ
橘「挿すタイプじゃないだけマシか」
橘「明日の放課後にでもコンビニか薬局で買うしかないかな」
橘「うう……」
美也「にぃにー?お風呂出たよー」
橘「ああ……」
美也「んー?にしししし、プレゼントたっのしっみー!」
橘「うぐぅ!」
美也「おっやすみー!」
橘「美也のやつプレッシャーかけてきやがって……はああ」
梅原「なあ大将……俺ぁそろそろ男でもいいんじゃないかと思ってな」
橘「は?どうしたんだよ梅原……お宝本が足りないんじゃないか?」
梅原「いやいや、こないだの温泉での大将の体、俺に取っちゃなんつうか、ギャップにきゅん死っつうか」
梅原「男梅原……女以外は友情以外芽生えないと思ってたが、考えを改めたぜ」
橘「う、梅原……」
梅原「いいだろ大将。お互い全裸を見合った仲じゃねえか」
橘「ど、どこ触ってるんだよ。あっ!」
梅原「な?行こうぜ、扉の向こう側へ!」
橘「う、梅原」
梅原「大将……」
橘「う、うわあああああああああああああ!!!!」
橘「ゆ、夢か……」
美也「今日も寒いねー」
橘「だな……」
美也「でもでも、明日は13度だって天気予報で言ってたよ!そしたらお兄ちゃんも布団から出られるね!」
橘「だな……」
美也「もー、みゃーの話聞いてないでしょ!」
橘「だな……」
美也「もう!お兄ちゃんの馬鹿!そんなんじゃ、りほちゃんに振られちゃうんだから!」
橘「だな……」
「あーん、だめよ橘君。こーんなに可愛い妹を困らせるなんて」
橘「だな……え?」
森島「グッモーニン!美也ちゃんってばほんっとに可愛いわぁ。うちに来ない?」
美也「ふ、ふにゃー!助けてにぃにー!」
橘「も、森島先輩!おはようございます!」
森島「おっはよーう」
塚原「もうはるか、いきなり走り出さないで」
森島「あはっ、ごめーん。でも美也ちゃんがかわいいんだもの!」
塚原「あのね……その子も嫌がってるでしょ。放してあげないと」
森島「えー、こんなに可愛いのに」
美也「うにゃー!はなしてー!ふーっ!」
森島「やーん、ホントに猫ちゃんみたい!」
橘(ああ、森島先輩の胸元に美也の頭が……)
橘(美也が暴れるとグイグイ先輩のふかふかが形を変えて)
橘(ありがとう美也。寒くて憂鬱な朝が吹き飛んだよ!)
塚原「……橘君」
橘「えへへ……は、はいっ!?」
塚原「そういうのに目が行くのは男の人だから仕方ないと思うけど、あんまり露骨なのはダメだよ」
橘「は、はい」
橘(しかしそういう塚原先輩もスタイルいいなあ)
橘(なんたって水泳部の元キャプテン。足も細すぎず、しかしどこか肉質というか)
橘(カモシカのような脚って塚原先輩のことを言うんだろうな)
橘(そ、それに案外胸もふかふかしてて)
橘「……あ、あれ?」
橘「な、なんで塚原先輩、胸を隠して」
塚原「……なんだかやらしい視線が足元から昇ってきたから」
橘「ええっ!?それはその!」
塚原「もう、言ったそばから露骨にするんだから。ダメって言ったでしょ」ピンッ
橘「あたっ!デコピンはひどいですよ」
塚原「ふふっ、だーめ。お仕置きだからね」
橘「は、ははは」
森島「はいはい、お暑いお二人はそこまで!」
美也「にぃにの馬鹿!デレデレしちゃって信じらんない!さいてー!」
塚原「は、はるか?だからそういうのじゃ……」
橘(はあ)
橘(朝から森島先輩と塚原先輩に会って)
橘(……)
橘(さいっっっこうじゃないか!)
橘(あとは美也がお邪魔虫だけど、まあ仕方ないか)
橘(……ん?後ろから響くこの軽いようでしっかりした足音は)
橘「七咲?」
七咲「はっ、はっ……はあ、おはようございます、先輩」
橘「おはよう七咲。朝から走って通学なんてさすが水泳部」
七咲「はあ、はあ……ふふ、違いますよ先輩。私は先輩が見えたから走っただけです」
橘「え?」
七咲「でもやっぱり、はあ。遠くからちらっと見えただけだから、違ったらどうしようかと思ったんですけど」
七咲「ちゃんと先輩で良かったです。走った甲斐がありました」
橘「そ、そっか。確かに僕がいれば美也も居ることが多いし、せっかくだから友達と学校行きたいよね!」
七咲「はい?確かに友達と通学するのは楽しいですけど」
七咲「私が走ったのは先輩がいたからですよ」
橘「え、そ、それはええと、つまりどういうこと?」
七咲「ふふ。それは秘密です」
七咲「それに美也ちゃんは今日……」
美也「あー!逢ちゃんおっはよー!」
七咲「……日直だったはずなんですけど」
美也「え?」
橘「美也、お前……」
美也「あ、あははは」
美也「さ、先行ってるねー!」
森島「あーん、美也ちゃん行っちゃったー」
塚原「残念でした。じゃあ彼女には悪いけど、私達はゆっくり行こうか」
七咲「ですね、あ、塚原先輩今日の部活なんですけど予定があって……」
塚原「ふふふ、もう私は引退したんだけど?」
七咲「す、すみません!なんだか感覚が抜けなくて」
森島「うんうん、ひびきちゃんはこわーい年上オーラがあるものね!」
塚原「ちょっとはるか?人聞きの悪いこと言わないで」
橘(ううん……天国か?)
橘「……というわけで、美也には女の子の日だからプレゼントを寄越せって言われてまして」
塚原「そうなんだ、お兄ちゃんも大変だね」
七咲「相変わらず仲いいですね。ちょっと羨ましいです」
森島「なるほどなるほど、それで橘君は困ってるのね?」
橘「はい……おおかた絞れてはいるんですけど、そこからどうすればいいのかさっぱりわからなくて」
塚原「そっか。でも本当に高いものじゃなくていいと思うよ」
七咲「はい。やっぱり気持ちが大事というか、美也ちゃんもお金がかかるものを欲しいわけじゃないと思いますよ?」
橘「そうかな……」
森島「んー……決めた!」
塚原「はるか?」
森島「今日の放課後は橘君と美也ちゃんへのプレゼント選びね!」
橘「へっ?」
森島「橘君は今日の放課後空いてる?」
橘「は、はいっ!いつでも空いてます!」
森島「んー!グッド!」
七咲「……」
塚原「七咲、どうするの?」
七咲「え……」
塚原「はるかは攻めの姿勢みたいだけど、先輩に懐いてる七咲はどうするのかな、って」
七咲「今日は先約があるので……でもそうですね」
七咲「森島先輩にはかなわないと思います……だけどちょっと悔しい、かもしれません」
塚原「ふふ。けど、案外大丈夫だと思うよ」
七咲「え?」
塚原「はるかはああいうタイプだけど、実は押しが弱いんだ」
七咲「そう、なんですか?」
塚原「うん、親友の私が保証する。だからチャンスはいくらでもある。かな?」
七咲「……はい。頑張ります」
塚原「うん。がんばれ……でもちょっと不安かな、今日ははるか達と一緒に行けないから。はるかが変なことしないといいんだけど」
橘「ふんふふーん」
梅原「よう大将、なんか機嫌いいな!」
橘「ああ梅原。まあね、なんたって今日の放課後は……」
梅原「放課後?なんかあるのか?」
橘「ふんふふん。驚くなよ……ゴニョゴニョ」
梅原「な、なにっっ!」
橘「シッ!ふふ、つまりはそういうわけなんだよワトソン梅原クン」
梅原「っくしょー!なんだってそんな羨ましいことを!」
橘「美也の女の子の日に感謝、だな」
梅原「ぐおおお!俺にも妹がいれば女の子と放課後デートが!」
橘「ふ、見苦しいぞ梅原君。おとなしく僕の幸運を祈っていてくれ」
梅原「この野郎、羨ましいぞこのっ、この!」
橘「ふっはははははは」
田中「あの二人、いつも仲いいね」
棚町「そうねー、実はあの二人デキてるからね」
田中「え?あはは、まさか」
棚町「いやいや。あの二人一緒にお風呂行ったり密室でこそこそしたり、川原を散歩してんのよ?」
田中「へ、へー、やっぱり仲いいんだ」
棚町「そして見てみなさい恵子、梅原君が両手をアイツの首に回してるでしょ」
田中「う、うん」
棚町「普通あんなことする?まるで恋人が甘えてるみたいじゃない」
田中「えーと、そう、かも」
棚町「でしょ?私達ですらやんないわよ。あいつらやっぱデキてるわ」
田中「わ、わあ……でもそれじゃあ薫が困るんじゃない?」
棚町「……」
棚町「う、うっさいわね」
田中「あはは、薫可愛い」
キーンコーンカーンコーン
橘「昼休みか」
梅原「だな。俺は金欠だからパンかね。大将はどうする?」
橘「そうだなあ、僕は学食にするよ」
梅原「そか。じゃあまた後でな!」
橘「ああ……じゃ、僕も行こうかな」
橘「えーと、空いてる席は」
「じゅんいちー」
橘「えーと……ん?」
梨穂子「じゅんいちー!こっちこっちー」
橘「ああ梨穂子、一人か?」
梨穂子「うん、香苗ちゃんはお金がないからパンにするんだってー」
橘「そっか。ちょっと席ないから一緒に食べてもいいか?」
梨穂子「いいよー。純一は何食べるの?」
橘「僕はこれ、シーフードカレーだよ。とんかつ定食と迷ったけどね」
梨穂子「いいなあ。私はD定食だよー」
橘「ははは、そっか」
橘(D定食って確か量がデラックスだったような気がするけど)
梨穂子「でね、先輩ってば酷いんだよ。ダイエットの途中なのにシュークリームを買ってくるんだもん、困っちゃうよね」
橘「それは梨穂子の心持ちで耐えればいいんじゃ……」
梨穂子「む、無理だよー!目の前にシュークリームがあるんだよ?」
橘「やれやれ、その調子じゃまた失敗だな」
梨穂子「うー、まだわかんないもん」
橘(やれやれ。ああそうだ、梨穂子にも聞いておこうかな。まあ梨穂子なら多少直接的でも大丈夫だろ)
橘「それはそれとしてさ、実は美也に……」カクカクシカジカ
梨穂子「へー、そうなんだ。女の子の日かあ……ふふふー」
橘「それでどうしたらいいだろう、ってどうした?」
梨穂子「ううん。美也ちゃんは可愛いなあって」
橘「そうか?女の子らしさの欠片もないだろ」
橘(女の子らしかったら実の兄に生理の報告なんてしないよなあ)
梨穂子「もー、そういうこと言っちゃだめなんだよー。純一ってばデリカシーないんだから」
橘「はいはい。じゃあデリカシーのないついでに、動くなよ」
梨穂子「ふぇ?」
橘「口周り、ソースだらけだぞ……よし取れた」
梨穂子「え、ええ?は、早くいってよー!恥ずかしいぃ……」
橘「いやー悪い悪い、なにせデリカシーがないからさ、僕」
梨穂子「うぅ、意地悪だよう」
橘(よし、いい雰囲気だぞ。この流れで自然に話を出せば聞けるんじゃないか?)
橘「……ところでさ、梨穂子はナプキンってするか?」
梨穂子「え?」
橘「いや、絢辻さんはナプキンするらしいんだけど、梨穂子はどうなのかな、ってさ」
梨穂子「えと……」
梨穂子(ナプキンかあ、きっとソースのことから話が続いてるんだよね)
梨穂子「私はしないかな……絢辻さんって純一のクラスの委員長さんだよね。きっちりしてそうだから着けてそうだね」
橘(梨穂子はタンポンなのか)
橘「実は美也にはナプキンをプレゼントしようかと思ってたんだけど」
梨穂子「えー、でも使いにくいよ?」
橘「そ、そうなのか?」
梨穂子「うん。私も使おうとしたことあるけど、すぐ取れて落ちちゃうの」
橘「落ちるのか……」
橘(アレって下着の下に着けるんじゃ……でも落ちるってことは)
橘(まさか梨穂子、ノーパン!?)
橘(ってことはあのむっちりした太ももの先には……)
橘(ひ、秘密の花園が!?)
梨穂子「……いち、純一?どうしたの?」
橘「はっ!あ、ああいやなんでも!はははは!」
橘「じゃあやっぱり、あげるとしたらタン」
伊藤「桜井ー!」
梨穂子「あ、香苗ちゃん。やっほー」
伊藤「やっほー桜井!いやー今日もいい食べっぷりだね!」
梨穂子「香苗ちゃん?なんだかご機嫌だね」
伊藤「あれ、わかる?実はそのー……い、色々あって!」
梨穂子「そうなんだー」
伊藤「そう、ふっふふふ!あ、そろそろ午後の授業始まるよ。じゃあ先行ってるから!」
梨穂子「ふぇ?もうそんな時間なんだ。純一そろそろ行かないと遅れちゃうよ」
橘「あ、ああ……そうだな」
橘「伊藤さん、なんかあったのか?」
梨穂子「んー。わかんないけど、香苗ちゃんが嬉しそうでよかったなあって」
橘「ま、それもそっか。じゃあまたな」
梨穂子「うん、またねー」
キンコンカンコン
橘「……」スクッ
棚町「あ、純一。今日帰り遊びに行かない?」
橘「すまない薫。僕は今日、行かなければならない場所があるんだ」
棚町「へ?そ、そう……それじゃまた今度ね」
橘「ああ」
梅原「……大将」
橘「梅原」
梅原「……健闘を祈る!」
橘「ああ、行ってくる!」
梅原「達者でな、大将……俺はいつでもお前の味方だぜ」
棚町「な、なに?どうしたのこいつら」
田中「なんだか変な空気だね……や、やっぱり恋人だからかな!」
棚町「恵子?あんたもしかしてそういうの好きなの?
橘「森島先輩!」
森島「おっそーい!女の子を待たせるなんて、ちょっと幻滅」
橘「ええ!?そ、そんな……」
森島「なーんて、冗談冗談!橘君のこと嫌いになったりしないんだから!」
橘「え?それって」
森島「あはっ、それはひ・み・つ!ご想像にお任せよ?」
橘「は、はい……」
森島「それじゃ行きましょ?私が美也ちゃんにぴったりのを選んであげる!」
橘「はいっ!」
森島「わお、いいお返事!行くわよジョン、GOGO!」
橘「ワンワン!」
森島「さあ着いたわ。ここで素敵なプレゼントチョイスね」
橘「せ、先輩?ここって」
森島「そう、美也ちゃんの女の子の日のプレゼントなんでしょ?」
橘「あ、はい」
森島「ここが一番種類も多いし、値段もお手頃なの!」
橘「な、なるほど。そういうのは知らないんで助かります」
森島「そうねー、男の子だもの、知らなくても仕方ないわ」
橘「ははは……」
森島「じゃあ行きましょ?」
森島「生理用品コーナーへ!」
橘「これは?」
森島「うーん、羽根はなくてもいいかも。美也ちゃんって余計なものは嫌いそうだもの」
橘「じゃあこっちは……」
森島「ううーん、普段美也ちゃんが何をつけてるかわかればいいんだけど」
橘「すみません、意識したことなくて」
森島「あ、ごめんね?男の子はわかんなくて当然だもの。しょうがないわ」
橘「やっぱりナプキンのほうがいいですかね?」
森島「そうそう、タンポンは常用には向かないから」
橘「え、そうなんですか?」
森島「もっちろん、私も使いにくいから使ってないもの。使うとしたら運動する時とかだけど、私はそういう時は体育休んじゃうから」
橘「なるほど……」
七咲「……お二人とも、何してるんですか」
橘「あれ、七咲?」
森島「わお、逢ちゃん奇遇ね!」
七咲「どうも……それで二人ともどうしてこんな所に?それにさっきから、へ、変な会話ばっかり」
森島「え?そんなに変だった?」
橘「さあ……どうでしょうか」
七咲「十分変でした。先輩のせいで、中多さんが泣きそうになって大変だったんですよ」
橘「え、中多さん?」
中多「あぅ、あうぅ……ふえ……」
橘「紗江ちゃん、こんにちは」
中多「しぇんぱぁい……そ、それ……」
橘「あ、これ?メーカーによって色々あるんだね。ナプキン」
中多「……う、うぅ」
橘「さ、紗江ちゃん?なんでじりじり逃げてるの?」
七咲「ナプキンをいくつも抱えた男の人がにじり寄ってきたら私でも逃げますけど……」
森島「ねえ逢ちゃん、私と橘君の変な会話ってどういうのかしら?」
七咲「……えっと」
森島『生理の時ってイライラするって言うけど、私はそうでもないの』
橘『へー、どうなるんですか?』
森島『えっとね?なんだかすごーくハイになっちゃうっていうか。橘君に抱きつきたくなるの』
橘『ええっ!?』
森島『そういうときに限って橘君の匂いが気になるのよねー。橘君は?』
橘『そ、そうですね……僕は森島先輩の膝裏を舐める時は結構』
橘『最近は犬の気持ちになることを心がけてますから』
森島『わお!グッドよ橘君。じゃあ今度は橘君の匂いかがせてね?』
橘『はは、それくらいならいくらでもどうぞ』
森島『ふふふ!楽しみね!』
橘『ははは』
七咲「……」
森島「え?どこがおかしかったのかしら。むむむ、これは難問ね!」
七咲「はあ……」
七咲(塚原先輩が言ってたのってこういうことなのかな……塚原先輩、大変だなあ)
七咲「それに」
中多「や、やめてくださいぃ……」
橘「え?紗江ちゃん、もっと大きい声で具体的に言わないとわからないよ!」
中多「あうぅ……せ、生理用品を持って……教官、無理ですぅ……」
橘「だめだめ、ナプキンにも色々あるんだから。さあ相手の細かい所まで見る特訓だよ、お客さんの細かい所作にまで気を配るようになるためだ!」
中多「せ、先輩が、羽根無しナプキンを……」
橘「その調子だよ!」
七咲「あっちは本格的に危険じゃないですか」
橘「すみませんでした。調子に乗りすぎました。ごめん紗江ちゃん!」
中多「あの、わ、私は別に……気にしてません……」
森島「うんうん、逢ちゃんもひびきちゃんが板についてきたわね!」
七咲「はあ……森島先輩も、ああいうことを公衆の場所で言わないでください」
森島「うーん、なんだか橘君といるとついふざけちゃって」
橘「え?」
七咲「え?」
森島「んー?どうしたの?」
橘「いえっ!なんでも!」
橘(どこからどこまでが)
七咲(おふざけなんだろう……)
七咲「……それで、お二人はどうしてあんなところに居たんです?まさか森島先輩のを選んでたとか?」
橘「いや、美也のを選んでたんだ」
七咲「…………は?」
森島「ほら逢ちゃん、今日の朝話してたじゃない!」
七咲「……すみません、思い出せないんですけど、今朝の会話のどこに生理用品が?」
橘「ほら、美也にプレゼントをねだられたって言っただろ?」
森島「女の子の日のプレゼントだもの!これは同じ女の子の出番じゃない?」
七咲「……」
七咲「あ、まさか」
七咲「え?本気で言ってるんですか?」
橘「本気も何も」
森島「それ以外あるの?」
七咲「すみません、ちょっと頭が痛くて……」
橘「え、大丈夫か!?」
森島「たいへん!じゃあ今すぐ頭痛薬買ってくるわね!」
七咲「いいです、それより頭痛の元凶をどうにかしたいですから」
橘「頭痛の元凶……?」
七咲「はい。少なくとも先輩の勘違いをどうにかしないと、美也ちゃんが大変なことになりそうですから」
橘「なんだろう、やっぱりナプキンじゃなくてタン」
七咲「いいですか!そもそも、美也ちゃんの言った女の子の日は多分、せ、生理じゃありません」
森島「え?そうなの?」
七咲「はああ……中多さん、さっきの先輩の話を聞いて、女の子の日ってなんだと思う?」
中多「ふぇ?え、えっと……多分、その……」
中多「ひなまつり、だと思います……」
橘「……ひなまつり?」
七咲「はい。というか実の兄に生理が来たのを嬉々として報告して、プレゼントをねだる人なんていません」
七咲「まして高校生にもなって、普通に考えてありえないじゃないですか」
森島「なーるほど!そっちがあったわね!」
七咲「むしろ、それしかありませんよ」
橘「……じゃあ、美也は生理用品が欲しいんじゃなくて、桃の節句のお祝いが欲しいってことだったのか?」
中多「た、多分……美也ちゃん、昨日からすごく機嫌良かったです……」
橘「そうだったのか……」
七咲「そういうことですから、別のものを買ってあげたほうがいいと思いますよ」
橘「う、うん。そうするよ。ありがとう七咲。紗江ちゃんも」
橘「森島先輩も、なんだか変なことに付き合わせちゃってすみません」
森島「ううん、全然。橘君と居るのは楽しいもの!なんだって楽しくなっちゃうんだから」
橘「あ、あはは。ありがとうございます」
森島「じゃあ、これから四人でおやつタイムにしましょ!橘君のおごりでね」
七咲「そうですね」
橘「……どうしてこんなことに」
七咲「先輩が美也ちゃんに恥をかかす前に食い止めたお助け料、ということで」
森島「女の子と出かけたんだもの。男の甲斐性よ?」
中多「あの……私やっぱり自分で……」
橘「あ、いいよ紗江ちゃん。本気で嫌がってるわけじゃないから」
中多「そうなんですか……?」
橘「うん、ゲームセンターで無駄に使うよりもこっちのほうが有益だよ」
森島「さっすが橘君!はいご褒美、あーん」
橘「ええっ!あ、あーん……」
橘(す、凄い!夢にまで見た『あーん』を森島先輩が!まさかこれも夢なんじゃ)
七咲「……先輩、あーん」
橘「え、えええ!?あ、あーん……」
森島「あはっ、逢ちゃんったらかわいーんだから!」
中多「……あ、あの、先輩。あ、あーん……」
橘(あ、これ夢かもしれないな)
森島「じゃ、私はここでお別れね」
橘「ほんとに送っていかなくて大丈夫ですか?」
森島「大丈夫大丈夫、ドントウォーリーよ。それじゃまた今度、逢ちゃんも紗江ちゃんもまたね!」
七咲「はい、お疲れ様でした」
中多「お、お疲れさまでした……」
橘「えっと、二人は?よければ送ってくけど」
中多「あ……私は、迎えに来てもらいますから……」
七咲「私も一人で大丈夫ですよ」
橘「そ、そう?でもやっぱり送らないと男が廃るというか」
中多「私は……大丈夫です。あの、逢ちゃんを送っていってください」
七咲「え、でも」
中多「本当に大丈夫……あ、あの車だから……」
橘「そっか、じゃあ紗江ちゃん、またね」
中多「はい……失礼します」
橘「今日は助かったよ七咲」
七咲「先輩は変な人だと思ってましたけど、ここまで変な考え方とは思いませんでしたよ」
橘「う、美也がいきなり女の子の日なんて言い方するからさあ」
七咲「確かに美也ちゃんの言い方も紛らわしいですけど。それにしたってありえません」
橘「うう、反省してます……」
七咲「……ふふ、でも美也ちゃんが羨ましい」
七咲「私も先輩と一緒に祝いたいな」
七咲「ひなまつりとか、誕生日、クリスマス……私も、いつまでも先輩と……」
橘「ん、何?」
七咲「……なんでもないです。私もプレゼントが欲しいなって思っただけですから」
橘「へっ?」
七咲「ふふ、3月3日。何かくれてもいいんですよ?」
橘「え、えーと、お金に余裕があれば……とか」
七咲「はい、期待してます」
七咲「あ、ここでいいですよ」
橘「そう?」
七咲「はい、すぐそこですから。それじゃあ先輩、また」
橘「うん、じゃあまたね」
七咲「……」
七咲「……先輩!」
七咲「私、森島先輩に負けませんから!」
橘「え?何を?」
七咲「くすっ……秘密です!」
橘「え、ええ?」
橘「な、なんだったんだろ。何か勝負でもしたのかな?」
橘「ただいまー」
美也「おかえり、にぃに。今日は遅かったね」
橘「うん、七咲や紗江ちゃんと会ってさ。喫茶店行ってきたんだ」
美也「ええー!ずるいよにぃに!みゃーも行きたかったー!」
橘「森島先輩も一緒だったけど」
美也「う……森島先輩は嫌いじゃないんだけど、苦手だよ……」
橘「まあ、そういうことだから」
美也「うにゃー、じゃあ晩御飯は?」
橘「それは食べるよ」
美也「じゃあにぃにの分、温めてくる!」
橘「ああ、ありがとう。それと美也」
美也「んー、なに?」
橘「女の子の日、期待してろよ」
美也「……にしししし!たっのしみー!」
橘「やれやれ、美也も単純というか」
橘「ま、たまにはあいつのために財布を軽くするのもいいか」
橘「ひなまつりかあ。美也がお雛様……馬子にも衣装、だな」
橘「……」
橘「」ガバッ
橘「待てよ?確か絢辻さんに相談したとき」
絢辻『妹さんだけじゃなくて、私にもプレゼントしてくれたら嬉しいんだけど?』
橘「……」
橘「か、母さん!小遣い前借りしたいんだけど!」