その男は強欲だった。
彡(゚)(゚)「はあー、ワイのコレクションもなかなかのもんやな」
彡(゚)(゚)「本棚にはありとあらゆるラノベが並び、ショーケースにはフィギュアがいっぱいや」
彡(-)(-)「でもすこし隙間があるな。埋めたいなあ」
彡(゚)(゚)「……」
彡(^)(^)「せや、また盗ってきたろ!」
発見された死者の姿は、一様にまるでただ眠っているだけのように見えたため
その病気は「眠り病」と呼ばれた。
J( ‘ー`)し「やだわあ、心配ねえ」
彡(゚)(゚)「マスコミが大袈裟にさわいどるだけやろ」
J( ‘ー`)し「あら、そうなのかしら?」
彡(^)(^)「コロナだって乗り切ったんや。大丈夫やで」
男の言葉とは裏腹に、病原菌は猛威を振るった。
世界保健機構や、各国の最先端医療研究チームがタッグを組み
全力でワクチンの作成に取り組んだが、時すでに遅く。
既に全人類が、その病原菌に感染していることが判明した。
日に日に、仲間の研究者の数を減らしていく中で、研究者たちも遂には匙を投げた。
やがて、人々も研究者と同様に無駄なあがきをやめ
残された時間をより質の高いものにしようと考えるようになった。
そうして、世界に人類史上初めて一切の争いのない穏やかな時間が流れることとなった。
彡(゚)(^)「マッマ、わい就職先見つかったわ」
J( ‘ー`)し「あらあら、ついにごくつぶしを卒業するのね」
彡(゚)(゚)「ひどい言いようやな」
J( ‘ー`)し「それで、どこのタコ部屋?」
彡(゚)(゚)「ちゃうわ! ちゃんとした公務員やで!」
J( ‘ー`)し「あらまあ」
彡(^)(^)「国が管理する墓園の管理人や!」
辛うじて機能していた各国政府は、ワクチン研究に託された膨大な予算を引き上げ
それらを広大な墓園の造成にまわし始めた。
亡くなった感染者を放置することで、新たな病気が蔓延することを防ぐためだ。
どうせ死ぬのなら、苦痛なく逝ける「眠り病」で。
いつしか、人々は「眠り病」を救いとして受け入れるようになっていた。
男の職場も、そうやって作られた墓園の一つであった。
(´・ω・`)「……お兄ちゃん。お兄ちゃんとの罵り合いもなかなか楽しかったよ」
彡(゚)(゚)「おやすみ原ちゃん」
隣人が死に
(o’ω’n)「……おん」
彡(゚)(゚)「おやすみおんちゃん」
友と別れ
J( ‘ー`)し「やきう、元気でね」
彡(。)(;)「おやすみ、マッマ……」
家族をみとっていく中で
男は、先に逝くことができた全ての人々をひどく羨むようになっていた。
大事な人たちを失う度に襲い来る悲しみが、そうさせた。
彡(。)(;)「どうして、ワイはまだ生きているんや」
彡(。)(;)「どうして『眠りの救い』は、ワイの下にやって来ないんや」
後に残されるほど、男は仲間を失う悲しみに暮れ
それに呼応するかのように先に救われた死者達をひどく妬ましく思うのだった。
♦
その男は、怒りに燃えていた。
世界は、その男一人を残して滅んでしまった。
どういうわけだか、その男にだけ「眠り病」の救いは訪れなかったのだ。
幸いなことに、ソーラーパーネルによって半永久的に稼働し続ける
政府の冷凍庫にはありとあらゆる物資が、今なお大量に残っていた。
せっかく備蓄された物資を使い切る前に、人類は滅んでしまったのだ。
そのおかげで、男が一人孤独に生きていくうえで困ることはなかった。
彡(●)(●) 「くそっ! くそっ! くそがああああああああああ!!」
男は、自分にだけ救いを与えてくれなかった病原菌に強い憤りを感じていた。
彡(●)(●) 「こんなイラつくときは原ちゃんでも殴りに……いや、もう原ちゃんおらんのやった」
彡()()「ぎゃああああああ、足があああああああああ」
彡(。)(;)「足が腫れてもうた。もう物にあたるのはやめよ」
彡(゚)(゚)「でも、何でうっぷんを晴らせばええんや」
彡(-)(-)「……」
彡(^)(^)「せや、カラオケでもいったろ!」
かつて世界が繁栄を極めていた時代、男はたまったストレスを
カラオケで発散するのが好きだった。
誰に気兼ねもなく、のどを痛めることを恐れず
ビールとから揚げとポテトを片手に、懐かしのアニメソングや
最新のロックンロールをあらんかぎりの声で歌いあげるのだ
世界が滅びようと、ビールも、から揚げもポテトだって手に入る。
ならば、カラオケボックスに向かうしかないではないか。
彡(゚)(゚)「だめか、電気はきとるのに何でか機械が動かん」
残念なことに、男の目論見は大きく外れてしまった。
カラオケボックスに設置されていた通信カラオケは
たとえ発電機から電気を回しても正常に稼働させることができなかったのだ。
彡(゚)(゚)「説明書も斜め読みしてみたけど、ようわからん!」
しかし、男は諦めなかった。
彡(゚)(^)「通信カラオケがダメなら、LDカラオケや!」
男の父は、とにかく新しいものが好きだった。
まだパソコンが一般家庭に普及していないころに
何の用途も考えずパソコンを買って母に怒られたり
ベータや3DOといったメーカー戦争の敗北者たちも軒並み家の棚に揃えられていた。
LDカラオケデッキも、そんな父の最新機器収集癖の遺産のひとつであった。
近所の迷惑になると、当時はあまり使わなかったものだが
世界が滅びた今、誰に気兼ねすることない。
問題があるとすれば、実家に置いてあるLDの収録曲は
父の趣味の演歌ばかりであったということぐらいだった。
彡(-)(-)「つがるううううかいきょおおうううううう、ふゆげええええしきいいいいいい!!!」
男の歌声には、あらんかぎりの怒りが籠められた。
だが、その強い怒りが妙に演歌とマッチした。
もし人類が滅亡していなければ、男はその演歌で天下をとれていたかもしれないほどだ。
だが、この世界にはもう鐘をならしてくれる公共放送も沸き上がる観衆もいない。
男のたった一人の演歌フェスは、男の喉がつぶれるまで続けられた。
♦
その男は、ひどく傲慢であった。
彡(゚)(゚)「はあ~、歌った歌った……なんやスッキリしたわ」
男は、三日三晩に及び続いた演歌の独演会を終え、ひとり仰向けになり空を眺めていた。
彡(゚)(゚)「大きな入道雲がぷかぷかと浮いとる」
彡(゚)(゚)「人間が滅んだってのに、青空は変わらんのやな」
彡(゚)(゚)「なんや、少し寂しいな」
ふと、男はかつて学び舎で習った平家物語を思い出した。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。
驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
猛きものも遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。
彡(゚)(゚)「勉強は苦手やったけど、なんでか覚えとるもんやな」、
彡(゚)(゚)「しかし、この書き出し。平家どころか人類が滅んだ今にこそふさわしいな」
彡(-)(-)「……」
彡(^)(^)
男の中に一つの邪悪な考えが浮かんだのは、そんな時であった。
彡(゚)(゚)「大変なことに気付いてしまったで」
彡(゚)(゚)「いま、世界に生き残ったのはワイ一人」
彡(゚)(゚)「つまり、ワイは世界一世界一野球ができて、世界一格好いい男というわけや」
彡(゚)(^)「大谷翔平もびっくりやで!」
彡(゚)(゚)「しかし、そうなると責任重大やな」
彡(゚)(゚)「なんせワイは人類にとって唯一無二の存在」
彡(゚)(゚)「唯一絶対の存在として、何か為すべきなんやないか?」
男はしばしの間考えた。
だが、答えがでるまで、そう時間はかからなかった。
なにせ、男は世界で一番賢い男でもあるのだから。
彡(゚)(゚)「せや琵琶法師や」
彡(゚)(゚)「ワイは、人類の滅亡をみた生き証人や」
彡(゚)(゚)「やったら、琵琶法師よろしく栄枯盛衰の伝道師となったろ」
この先、伝える相手など誰一人していないであろう。
それでもなお、男をそうせざるにはいられなかった。
彡(-)(-)「でも、ワイは歌うのは好きやけど琵琶なんてひけんしなあ」
彡(゚)(゚)「かといって、物語を書けるほどの文章力もない」
彡(-)(-)「どうしたもんや」
男は、如何にして人類のあり様を伝えようかと悩んだ。
何らかのメッセージ性が籠ったモニュメントの作成や、人類史の編纂
様々な手法を考えては見るものの、それらを為すには困難であるように思われた。
長きにわたり考えた末、男は特別な何かを残すことは諦めた。
翌朝、男は自身の職場へと向かった。
政府から管理業務を委託された、あの墓園にだ。
彡(゚)(゚)「別に、何か特別な物語やモニュメントを作る必要何かないんや」
彡(゚)(゚)「つまり、ワイこそ唯一の人類なんやから」
彡(゚)(゚)「ワイのもつ価値観、知性、溢れ出る性欲、ワイの行動すべてが人類そのものなんや」
彡(゚)(゚)「ワイの生きざまこそが、何千年の歴史を積み上げてきた人類の集大成なんや」
彡(゚)(゚)「やから、ワイは普通に生きとったらええ」
彡(^)(^)「ワイの人生こそが、人類栄枯盛衰の平家物語や」
男が出勤して、初めにやることは墓園の清掃であった。
木々から零れ落ちた枝葉を、竹ぼうきで集め焼却炉に突っ込む。
それが終われば、墓園の外での営業活動だ。
住宅地を訪問してまわり、放置された遺体を見つければ、墓園まで運び
弔い、見つからなければ日が暮れる前に帰宅する。
休日は、ガソリンや保存食といった生活物資を集めたり
ふと思い立って玩具屋へ突撃し、好きだったアニメキャラのフィギュアを掻っ攫ってきたりした。
そして、時には休日が終わってもなお出勤を拒否し、何処へとも知れず旅に出るのだ。
そうして、男は世界で一番罪深い男となったのだ。
♦
その日、男は定年を迎えるに至った。
男は、墓園に残されていた最後の墓に、名も知らぬ誰かの骨を納め、丁重に弔った。
男の管理する墓園に、もはや空き室はなくなった。
男は、あまりの達成感にしばらく墓の前にうずくまり、声も出せずに静かに泣いた。
長年、不摂生な生活をしていたというのに、男は随分と長い時間生きていた。
何十年もの長き時間が、男の体を老いさせていた。
男の顔には、深い皺がたくさん刻まれ、またあちこちに黒いシミが浮き上がっている。
本来であれば、満室になった墓園を維持管理し続けるのが男の務めだ。
だが、既に男は自らの死期を悟っていた。
ならば、手前勝手ではあるが自主定年とさせてもらおうという魂胆だった。
男は、最後の力を振り絞り穴を掘った。
墓園の片隅にある男の姓が刻まれた墓、そう男の家族たちが眠るの墓の前にだ。
男は、息をぜえぜえと吐きながら、普通の大人であれば2,3人は収まるであろう広さを掘った。
その穴は、男の暴食の産物である大きく膨れ上がった巨躯を納めるに足る墓穴であった。
男は、穴の中に布団やクッションを敷き詰め
周りには長年愛でてきたコレクションを添え、最後にその中に飛び込んだ。
男には、なんとなく、明日の朝、ワイは目が覚めないのではないかという予感があった。
なに、万が一、予感が外れて目覚めることがあれば
また仕事をすればいいさ。
もし寝坊しても、通勤時間を考慮しなくていいから楽チンだ。
そんな不遜なことを考えているうちに、男はうとうとと睡魔に襲われ
いつのまにか眠りに落ちていた。
その日、世界で一番罪深い男は、静かに息を引き取った。
男の死に顔は、その罪深さとは裏腹に穏やかで優しいものであった。
読んでくれてありがとう
昔書いたのもよろしく
彡(^)(^)「せや!異世界転移したろ!」
彡(゚)(゚)「机上の空論?」
彡(^)(^)「油マシマシこってりラーメンアチアチで!」